一章 使徒16 - 商談
異世界クラフト 一章 使徒16 - 商談
「ちっ。今の言葉、確かにハイゼメック男爵夫人に伝えておくからな、後で後悔するんじゃないぞ」
そんな捨て台詞を残して、男爵夫人の使用人は店から出て行った。
もちろん俺への礼は一切なしだ。言われたところで迷惑なだけだが。
「それでは、お客様。ご挨拶が遅くなりましたが、私めは、この店の主でラン・コットと申します。よろしければ、お名前の方をお教えいただけないでしょうか?」
今回は正真正銘丁寧な態度で、俺に向かって訪ねてくる。
「俺はサトウ・ハジメ。そこのエルフは俺の連れでリィート。二人で旅をしていて、この街にはつい今しがたついたばかりだ」
俺が自己紹介をすると、店主のラン・コットは我が意を得たりとばかりに頷いて応える。
「なるほど、それで金でのお支払いというわけですな。いろんな国を旅していると、確かにそれが一番間違いないでしょう。ですが、供の者もつけづに、危険ではないですかな?」
男と女の二人連れで、金塊を無造作に持ち歩いているとなると、強盗ホイホイが歩いているようなものだ。
むしろ、襲われないほうがおかしいくらいだ。
「その心配なら無用だ。このリィートは、無双の魔法使いだ。千人や二千の軍勢ならば、片手で蹴散らすことができよう」
俺は、随分と控えめに言った。
今のリィートは、一国の軍隊を軽く凌駕できるだけの火力を持っている。
ただ、そんなことを言ったところで正気を疑われるのが関の山だ。
「ほう、さようですか。それは心強い。私が商品調達に出かける時には、ぜひご一緒させていたたきたいものですな。ははは」
本気とも冗談とも取れる微妙な反応をみせながら、ラン・コットは笑った。
リィートを見ると、少しはにかむような感じで軽く頭を下げていた。
いい感じの表情をする。そういうのも、俺的には悪く無い。
「それはともかく、服を見せてくれ。俺のものは、この国で一般的な感じのものがいい。あまり、目立ちたくないんでな。だが、リィートには一番良いものをたのむ。連れの女には出来る限り美しくいて欲しいからな」
俺は、さっそく注文をつけながらラン・コットに言った。
すると、すぐにリィートが反応する。
「いえ、わたしのものは、どのようなものでも。主であるハジメさまを差し置いて、贅沢などできません」
俺を見る美しい瞳は、まっすぐで曇りがなかった。
だが。
「勘違いするな。これは、俺のためだ。美しいお前を連れて歩く。これ以上の快感はそうはないぞ?」




