一章 使徒14 - 交渉
異世界クラフト 一章 使徒14 - 交渉
「かならずや、お支払いいただけるものとは信じております。ただ、手前どもの商品をたかが呼ばわりされるのは、大変心外にございます。職人がひと針ひと針丹精を込めて作り上げたもの。ハイゼメック男爵夫人も現物をお手に取り、大変お気に召したご様子。それを後からこのような言いがかりをつけられるとなると、手前どもも絶対に承服いたすわけにはいきません。この店をお取り潰しになられるなら、どうぞご勝手になさってくださいませ。ただし、このお支払いに関しては、一セランたりともおまけするわけにはまいりません」
どうやら、客の対応をしていた男は、この店の主でかなり頑固な性格のようだ。貴族の使者を相手に一歩も引く様子がない。
ちなみに今の話しの中に、クランとセランという二つの通貨単位が出てきたので検索したら、セランはクランの補助通貨で百セランで一クランになるということがわかった。
この国の物価がどうなっているのかはまだわからないが、単純に一セランを一円と考えたら、一万クランというのは百万円ということになる。
確かにこれは、高いような気がするのだが……。
まぁ、価値観など人それぞれだ。
日本にも百万円の服などいくらも存在する。
ただ、このままではどにも埒があきそうになかったので、俺はこの事態に介入することに決めた。
この後、食事もしなくてはならないのだ。
「リィート、金はまだ持っているな?」
俺は横にいるリィートに向かって確認する。
もちろん、分かっていて聞いている。
「はい、ハジメさま」
リィートは美しい顔を俺に向けて答える。
俺の中の欲望が見事なまでに反応したが無視する。もちろん、今は、という条件付きだ。
「店主に全部渡してやれ」
俺が言うと、リィートは何も聞かずに店主のもとに向かう。
「これは、お客さま。いかがなされました?」
ハイ・エルフであるリィートが珍しいのか、それともリィートの態度に何かひっかかる物を感じたのか、若干不審そうに聞いてくる。
「我が主からです」
リィートは余計なことは言わずに、袋に詰めなおしていた金塊を取り出して差し出す。
すると、そこで店主はようやく俺の存在に気づいたらしく、こっちに注目した?
「これは、お客さま。不躾ですが、一体どういうおつもりで?」
店主は金塊に手を触れようともせずに、俺に向かってそう聞いてくる。
「そこのお方の代金は、それで足りるか?」
俺が言うと、男爵夫人の使用人が俺の方をはっと見たが、聞いてきたのは店主だった。




