一章 使徒13 - 呉服屋
異世界クラフト 一章 使徒13 - 呉服屋
それと、リィートがライトの魔法を使ってくれているので、俺とリィートの周辺もそれなりに明るい。
もっとも、魔法の灯りは集光性に乏しく遠くまで視界を確保できないので、手持ちの灯りとしては使い勝手が悪い。
とりあえずの拠点となる国を定めたら、早急に産業革命なり起こす必要があるだろう。
ある程度は文明化してくれないと、俺が暮らしにくい。
「ハジメさま。あちらのほうに、呉服屋があるようですよ」
俺よりだいぶ夜目が効くリィートが教えてくれる。
もちろん、俺には見えない。このままでは。
俺は店舗で検索をかけてマーカーを表示させると、確かに店があるようだった。
さらに概要を確認すると“呉服屋のぞみ”と表示される。
「呉服屋のぞみか。どうやら、男女両方の服を扱っているようだな。入ってみるか」
俺が言うとリィートが頷く。
「はい、ハジメさま。でも、ここから看板を確認できるなんてすごいですね」
素直なリィートの反応に、
「裏技を使っただけだ。だから、あまり褒めるな。恥ずかしくなる」
俺は少し苦笑しながら答える。
「裏技……ですか? よくわかりませんが、すごいです」
どうやら何を言っても無駄なようなので、俺はもうほっとくことにする。
俺とリィートが店に入ると、先客がいた。
見たところ、身なりの良い服装をした人物だが、店の人間ともめている様子だった。
「だから、これはどういうことかと聞いてるんだ。こっちは、ハイゼメック男爵夫人の使いで来てるんだ。ことと次第によっては、このような店くらい、簡単に取り潰せるんだぞ!」
身なりの良い客がそんなことを言っている。
どうも穏やかな話ではなさそうだ。
隣にいるリィートが俺に目で、このまま出ますかと聞いてきていたが、俺は腕を組んで小さく首を横に振った。
この国がどういう国であるのかを理解するための、よい機会になりそうだった。
「しかし、お客様。手前どもといたしましても、ご注文通りのお品をお持ちいたしましたわけでして。お支払いの期日を過ぎてから、値段が割に合わないと申されましても、到底了承いたしかねるとしかお答えいたせません」
という店側の話で、話の争点が見えてきた。
どうやら、よくある金銭的なトラブルのようだ。
「だから、こちらは払わないと言っているわけではない。一万クランはあまりに高すぎると言っているだけだ。たかが一着に、この値段は法外ではないか?」
話しの内容からさっするに、男爵婦人の使用人らしき男がそう言って食い下がる。




