一章 使徒12 - 夜の街
異世界クラフト 一章 使徒12 - 夜の街
もちろんリィート以外には、こんなめんどくさい話をするつもりはない。
「こちらのお部屋でございます。それでは、ごゆっくりどうぞ」
案内してくれた従業員は、それ以外余計なことは一切口にせず、リィートに部屋の鍵を渡すと立ち去った。
やはり、この宿屋を選んで正解だったようだ。
リィートが鍵を開けて、ドアを開く。
「どうぞ、ハジメさま」
どうやら、俺に先に入れと言っているようだ。
俺としてはどっちが先でもかまわないのだが、わざわざ言ってくれているわけだから先に入ることにする。
「悪くはないな」
どうやらこの宿屋で一番いい部屋だったらしく、中はそれなりに広く調度品も揃っている。
雰囲気としては、ゴシック調のホテルの一室といった感じか。
もちろん、全室こんな感じだとは思わないが、一々調べるつもりはない。
そのうち、知る機会はかならずくるだろう。
「そのようですね。それで、これからどうされますか?」
リィートが聞いてきた。
そう言えば、腹が減ってきている。
もちろん俺は『コズミック・スフィア』内にいる限りなにも食べなくても死ぬことはないが、何も食べない人生など送りたくもない。
ということで、普通に腹は減るように設定してある。
「ルームサービス……」
俺は、言いかけて止めた。
せっかく未知の世界での冒険が始まるのだ。
この世界を自分自身で体験しなくてどうする。
「いや、どこか食堂を探そう。その間に、服も買っておきたい」
俺が言うと。
「はい、ハジメさま。でも、たいへん言いづらいのですが、わたしは人間の世界にあまり詳しくありません」
だろうな、と思いながら俺はリィートの話を聞いていた。
「なに、どうせリィートにしても俺にしても、胡散臭い旅人にしか見えんさ。事情に詳しければかえって怪しまれる」
俺の言葉にリィートは頭を垂れる。
「ご鶏眼、おみそれいたしました。それでは、このままお出かけになられますか?」
その言葉に俺は頷く。
「ああ、そうしよう」
というわけで、俺はリィートと共に夜の街にでた。
ただ、これは最初から分かっていたことなのだが、街中はとにかく暗い。
とはいっても、暗視モードを起動するほどではないが、店頭の灯りは油皿に芯を入れて火を灯す、行灯のような灯りばかりなので、その周辺がぼんやりと明るくなるような具合であった。
ただ、街灯としてライトの魔法が使われており、それが主に道の視界を確保していた。




