一章 使徒11 - 街の宿
異世界クラフト 一章 使徒11 - 街の宿
リィートと一緒に宿についた時には、もうすっかり日が暮れてしまっていた。
なぜこんな時間になったかというと、あちこちの街を見て回っていたからだ。
これは、俺の失敗とも言えるが、ハイ・エルフは人間の街のことをほとんど知らなかった。
なので、マシな宿屋がある街がわからずに、マップを頼りに移動していたのである。
もちろん『ゴッド・マザー』から情報は取れるが、しょせんそれはデータに過ぎない。
それが俺の趣味に合うかどうかは、実際に自分の目で見てみないことにはなんとも言えなかった。
というか、実際に見てきた結果がこれだったのだ。
「部屋の手続きはお前にまかせる。宿代はこれを使え。余っても俺に返す必要はないが、足りないようならまた言え」
俺は話しながら、生成した小さな金塊を十二個渡す。
この国の通貨を生成することも可能だったが、あえて金塊を渡した。
というのも、明日は別の国にいるかもしれないからだ。
金の汎用性を考えれば、今のところこれがベストだろう。
落ち着く先が決まれば、その国の通貨に変えればいい。
「部屋がとれました。これから案内してもらえるようです」
交渉が終わったリィートが戻ってきて報告する。
「念の為に聞いておくが、釣りはもらったか?」
最初に伝えておかなかったが、金塊にしたのにはもう一つ理由があった。
「いいえ、これの価値に見合う部屋を、という交渉をいたしましたしたので」
それを聞いて、俺は頷いた。
「それでいい。気前のいい客のことを、あれこれ詮索するようなことはしないだろう。俺が、この辺りの状況を理解できるようになるまで、あれこれ詮索されたくはないからな」
データとしてなら概要を把握することはできるが、しょせんそれは文字情報にすぎない。
最後は自分の目で見て体験したほうがいい。
なにしろ、そのために俺はここにいる。
「全てを把握している存在が、神だと思っていたのですが?」
宿屋の従業員に案内されながら、リィートが聞いてくる。
とりようによっては、嫌味のようにもとれなくはないが、この場合純粋な疑問だろう。
「視点の問題だな。例えば森を考えよう。神は森を俯瞰して見ることができるから、森がどういうものかひと目で把握することができる。落ち葉の下に住む虫には森に住んでいるという認識すらないだろう。その虫にとって、落ち葉の下こそが全世界だからだ。だが、森を俯瞰するものにとって、虫の一つ一つを見ることはない。その虫がどんな世界に生きているかなど、普通は知る必要はないし、興味すらないだろう。同じ世界に住んでいたとしても、視点が違えば世界は断絶しているとも言える。俺の場合だと、俯瞰できる世界は遥かに広く、時間は悠久に及ぶ。結局のところ、同じ視点にまで降りていかなければ、ほんとうの意味で理解などできるものではない。まぁ、そういうことだ」
部屋につくまでの間、俺は噛んで含めるように説明をした。




