序章 『コズミック・スフィア』
異世界クラフト 序章 『コズミック・スフィア』
今、俺の目の前には、十年近くかけてついに完成した宇宙がぼんやりとした光を放っている。
透明な次元断層フィールドに包まれて、無数に輝いて見える光点は、一つ一つが銀河の放つ光であった。
そう、俺はついに宇宙そのものを生み出すことに成功を収めたのである。
俺の研究をとことん馬鹿にしくさった学会のバカ者どもには、一生をついやしたところで完成どころか理解するできないことであろう。
だが、そんなことはどうでもよかった。
科学者としての名声とか、研究成果を認められて歴史に名前を残すとかいうようなことは、俺がやろうとしていることに比べれば、しょせん瑣末な事象に過ぎないからである。
幼い頃に読んだ冒険小説。
異世界を訪れた主人公が超人的な力を得て、現代の知識を駆使しながら大活躍する。
俺はそんな物語にめり込んだが、読めば読むほど不満が鬱積していった。
目の前にいい女がいて、掴みとろうとしない。
一人の女とくっついたら、なぜ他の女を無視する。
正義の味方ぶった言動にも虫酸が走るようになっていった。
こういった想いが、俺の原動力になっていた。
そう、俺は俺自身の欲望を満足させるためだけに、この人口宇宙『コズミック・スフィア』を生み出したのである。
ゆえに、俺の研究開発はここからが本番だと言えた。
『コズミック・スフィア』内を観察するための、高次元監視装置『スコープ』は同時開発を行っていたのですでにある。
『スコープ』を使って定点観測を行った結果、一定間隔でビッグバンと収縮によるビッグクランチを繰り返す間、毎回同じ歴史を繰り返すことが確認できている。
だが、まだ『コズミック・スフィア』に干渉するための手段と、なによりその中に俺自身が入るための手段が未完成であった。
もしそれが完成すれば、名実ともに俺は『コズミック・スフィア』内で無敵の存在となることができる。
ようするに、気分次第欲望次第でやり放題できるってことだ。
ということは、この世界をどれだけ楽しめるかは、俺自身の演出にすべてかかっているということなる。
それは、現時点においてまだ少しだけ先の話であった。