【詩】古代のゆめに雨がふる
微かだが、
そらを見るほおに
たしかに感じる
この雫は、
けっして豊かではなかった、
古代の人びとの
涙のひと欠片。
彼の人たちの
僅かなよろこびは、
あすの糧があるということ。
そして、
この夜の
雨露をしのげるということ。
華やかな
朱と青丹いろに
彩られた
みやこのおうらいに、
立ち尽くして
泣くことしか知らない
はだしの子どもがいた。
極彩色のふねを、
明々(あかあか)と
池に浮かべた
宴のよるは、
片すみのやみを
黒々とぬりつぶす。
異国のひとの
夜目にも白いよこがおや、
あるいは
つややかな小麦のひたいに、
叶えたいゆめの
叶うゆめのくにを
ゆめみている。
好きなことだけを
いつまでも
追いかけている、
子どものゆめ。
あえはしないひとに、
抱きしめられることを
ゆめみている、
子どものゆめ。
さよならという
切なさが、
ねむる間に
消えてしまうと
しんじて眠る、
子どものゆめ。
朱雀のおうらいは
千年のゆめを眠らせる。
よみがえる
みやこの面影と
ともに湧きでてきた、
彼の人たちの思いと
かたらい思う。
わたしたちは
いつから
わたしたちなのか。
遠く近く
明滅する
古代のいぶきに
雨が降る。
数限りなく
ふりそそぐ雫の、
たやすくえがく
水溜りのはもん。
しだいに数を増す
円をまえに、
わたしの中の
古代のわたしが
立ち尽くしている。