夢の続き
この日は確か、養父の勤める研究所に私も勤めることになってから3ヶ月ほど経った頃だったと思う。養父が何を思って私をよんだのかはわからないが、頼りにされたことが嬉しかったし、何より私は研究というもの自体が大好きなのだ、断る理由があるはずもなかった。
しかし、現実はそれほど楽観的ではなかった。仕事そっちのけでどうこうなんてことはなかったが、同僚は私とは距離を置いて扱い、下っ端として雑用を頼まれ、こなすだけの日々が続き、孤立していた私は思った以上に消耗していたらしい。資料室の整理中にウトウトしてしまった私が慌てて仕事を終えたときには、いつもより2時間ほど遅くなってしまっていた。慌てていた私は、明かりが無いためいつもは避けていた小路を急いでいた。
しまったと思った頃には周りからうなり声が聞こえてきて、荒くれ者達のたまり場に踏み込んでしまったようだった。どこかのおのぼりさんが。
私はうなり声のする路地を覗き込むが、薄暗いこの道では姿が見えない。飛び出すにとびだせず、様子を見守っていたところ、折りよく雲間から月の光が路上を照らした。と思った。いつまで経っても地面に光が射さないのを不思議に思っていたがどうやらそこに件のおのぼりさんがいたようだ。夜から切り抜いたような漆黒の子毛玉。思わず彼女の(と思っていた)首根っこをつまんで駆け出すと共に、懐の小袋(自然に帰る包装)を地面に叩きつけて駆け出した。うしろで完全にノックアウトの野良猫達の喘ぎ声が聞こえるが、私はつまんでいる猫に意識をもってかれていた。一目見たときから完全に魅了されてしまっていた私はそこそこ遠ざかったところで一息つき、彼女(と思っていた)を脇抱えにして壁に押し付けて言ったのだ。あの時は一種の興奮状態だったのでよく覚えていないが、
「私と一緒に暮らしてくれませんか?」
とねこに向かってかなり本気で。言葉を話せるわけでもないのに、
「さ、三食昼寝付きで私が帰った後相手をしてくれればいいの。」
そんな風に熱烈に頼み込んだはずだ。そして彼女(と思っていた)が偶然だったろう、うなずいた様に見えたのを幸いに言質をとったぞ!とばかりに大喜びして彼女(と思っていた)を抱えなおして[お持ち帰り]し、一緒にご飯を食べてお風呂に入り、やはりとても美人さんだった彼女(と思っていた)と眠った。その日は何故かとてもよく眠れたと思う。
重いまぶたをなんとか開くと、初めて一緒に眠った日と同じように彼は私の横で丸くなっていた。気持ちよさ気に目を細めて眠る彼を見て自然と私は微笑んでいた。彼のおかげだろうか?風邪は治ったみたいだ。
私はご飯を作るため、台所に立った。




