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彼女の秘密①後半

 その後も幾試合か申し込まれ、その数に比例して彼女は竹刀を振るった。

相変わらず彼女だけは静寂に包まれている。剣道に詳しくない私でも、周りの人達と比べればいかに彼女が異質であるかわかる。

「まっとうに打ち合う、またはつばぜり合いになれば、俺達が有利意だ、だからシオンさんは打ちあわないようにしているのはわかる。」

 道場性が不意に話し始める。

「まず疑問に思うのは彼女の一撃の音がしないことと、踏み込みの音がしないことだ。いくらすり足といっても素足と床の摩擦までなくせるわけじゃない普通は少しくらい音がするもんだ。だが、シオンさんの場合、雪面を滑るように全く音がしない。しかも打ち込みは長々と竹刀の感触があるのに痛みはない。すなわち、斬られている。持ってるのが刀なら引き切られてるってことだ。

それを感じ取ったとき背筋に嫌な汗が垂れたものだ。彼女がつよいかどうか、はっきり言って立っている舞台が違うって感じだな。幕末時代の人間がタイムスリップしてきたってほうがよっぽどわかりやすい。」

 どうやら彼女は想像以上に別次元の存在らしい。

「あの若さで空恐ろしいというか。俺達は試合の前に、シオンさんと向き合うことでこう、なんつうかな、生き死にが身近にあった時代の空気を感じ取るっていうか文字通り真剣さってのを取り込んでるんだ。嬢ちゃんのデートの邪魔しちまってわるかったな」

「で、デート?そそそ、そんなんじゃありませんっ」

 思った以上に大きな声が出てしまった。

「あの若さであの強さ、はっきりいって異常だ。それにたぶん、あれが全力じゃないと思う。シオンさんが普段何してんのかもわからなくてな今日嬢ちゃんがきてくれて勝手ながら安心したんだ。シオンさんをよろしく頼む」

 「まぁ、確かにあなたによろしく言われる筋合いなんてないんでしょうけど、任せなさい、友達なんだから」


 結局彼女について分かったのはなんにも分かってなかったという事実のみである。あともう一つ、彼女を心配してくれる人が他にもいるということか。稽古が終わるまで見学して彼女と一緒に帰宅する。稽古の模様を見られて恥ずかしいとのことだったが、はっきり言って胴着を着てたらわかるのは動きがとんでもないということだけだった。ああ、あと面をとった時のうっすらと汗をかいた顔と髪にちょっとキュンとしたのは内緒だ。





[ぼくのでばんがない]


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