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 序


 魔法使いの王国が崩壊したのは、ほんの四〇〇年ほど前の話だ。

 神族や魔族すらを圧倒した種族『魔法使い』。彼らの統治は、一言で言うなれば『無関心』だった。それは、神族や魔族はもちろん、人間や同族に対してもそうだった。

 王国である以上、王はいた。

 また、側近やその枝葉は存在したが、それ以外に関しては同列に置かれ随分と稚拙な組織図の国であった。また、『無関心』と言われるだけに他種族を支配下に置こう当いう姿勢はみられず、その歴史や法、政をどのように行ったのか。習慣・風俗などもほとんどが謎となっている。

 何とも閉鎖的な国ではあったが、交流が皆無だったわけではない。一部の商人などを通じて医療や各産業への技術的なものから、(魔法使いにとっては)生活雑貨でしかない程度の魔導具を卸したり、学問といった知的財産。魔法使いの文化・文明を知ることのできる、ほんの一部が取引された。

 もちろん、と言っていいのか、そういった良い物ばかりではなく、(魔法使いは買い上げる方だったが)他種族の人身売買。『番犬』と呼ばれる化け物(元は売られた人間たちと噂されていた)の販売。そういった黒い噂は、気まぐれに町や村を滅ぼす魔法使いの存在も助長し、人間による王国崩壊へとつながった。

 そう、王を討ったのは人間だった。魔法使いは言うに及ばず、神族や魔族にも遙かに及ばないと思われていた人間がそれを成したのは、ある種の奇跡だったのかもしれない。

 しかし、奇跡であれ何であれ、世界を変革したのは人間で魔法使いの時代が終わったのは確かだった。

 それから約四〇〇年。ごく少数になった魔法使いと世界全土に版図を広げた人間は、互いに不干渉という形で共存していた。


「魔法使いの歴史は判っているだけで一万年を数える」

 そう、抑揚も感情もなく一息で語ったのは、トカゲのような外見の亜人種だった。

「その歴史の中で大きな汚点は猿に隙を見せたことだろう全く持って嘆かわしく思うがそれよりも恥知らずな猿どもの行動に憤りを覚える」

 魔法使い・人間・神族・魔族すべてに通じる公用語なのだが、この亜人、リザードマンは発声器官の違いや、先述した種族特有の話し方から異様に聞き取りにくい。

 そして、彼はリザードマンであると同時に『魔法使い』だった。

「せやから言うて、何の罪もあらへん村人をイジメんのはかっこわるいで?」

 魔法使いと相対するのは、一人の女だった。

 まだ幼さの残る顔立ちから、彼女が少女と呼ばれる年代であることが伺える。そんな少女もまた、聞き取りにくい公用語で話す。こちらは異様なまでに訛っている。

「それが理由か? そのような理由で館に踏み込みあまつさえワタシを討ち取ろうというのか全く浅はかな猿だ度し難い」

「ああ~…いや、それは事のついでっていうか。ウチの目的は、あんたが蓄えとる魔導具や。探してる物があんねん。もしかしたらあんたが持ってるかもしれへん。何せ魔法士としては大したことないそうやけど、魔導士としては一角の者らしいやんか?」

 そういってニヤつく少女は、町中でカツアゲをするタチの悪チンピラのような、それこそ蛇やトカゲのように爬虫類じみていた。

 しかし、魔法使いは少女の変貌に動揺することはなかった。本人が爬虫類なので当然なのかもしれないが。

「ワタシが魔導士であることを知ってこの館にノコノコと侵入したのかならば思い知るが良いここまで侵入できたのはお前が優れていたのではなくワタシが招き入れたのだということを」

 言い終わる前に仕掛けは作動した。音もなく光ることもなく少女に迫る死は、しかし、少女が腕を振るっただけで霧散した。

「…なっ!?」

「せやから、導具作るしか能がないってことやろ? この距離まで詰めてたら駆け出しでもヤれるわ」

 その言葉に返事はなく、代わりに重い物が床に倒れる音が響いた。

「何百年生きたか知らんけど、最後の言葉が『な』やて。隙だらけやし、ホンマ今までどうやって生きてきたんやろ? よう退治されんでくれたもんやな」

 呟きながら、少女はこの幸運に感謝する。

 魔導具は国か魔法使いが直々に管理していて、そう簡単に手に入る物ではない。ましてや軍事転用できたり、ある一定の影響を及ぼす物に関しては、魔法使いによって封印されてしまっているらしい。そして、その魔導具を管理している魔法使いが悪事を働いていて、(少女にとって)雑魚だったのはまさ幸運だった。

 ここまでついているのだからもう一つくらい幸運に恵まれ、目的の魔導具が見つかるように少女は願った。


 魔法使いの館というのは、魔法の研究などをする工房も兼ねているため、比較的大きめに作られている。とはいえ、神族や魔族の住居やダンジョンほどではなく、大きな街にある宿も兼ねた酒場を二つ分くらいの広さだ。広くはないが決して狭くはないこの館のことを熟知しているかのように歩く少女は、程なくして階段を見つけ、やはり迷わずに地下に降り魔法使いの私室を発見した。

「やっぱな。トカゲやし地下やと思うてん」

 どうやらこの少女は、知らない土地だろうが迷っていようが、とりあえず突き進むタイプのようだ。

「さぁ、お宝さん探すでっ!」

 気合いを入れる少女。しかし、


 それから五分後。少女は最後の最後で罠に引っかかり、魔法使いの館は崩壊してしまった。



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