第三話【セーラー服に、Combat plane】
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巨大ロボットの出現
甥っ子の誘拐
そして、高性能の戦闘機(?)から舞い降りたセーラー服を身に纏う美少女
悪い夢であってほしいと、何度願ったか
それほど、今日という一日は訳がわからなかった
きっと頭で理解することは不可能だろうけど、人間というものは自分の知らないものを知りたがる
それが謎を含んだ未知なるものほど
透也も例外なく、その服装と無骨な戦闘機がどう関係し、さらに彼女は何者なのか知りたかった
「EDチャージまで時間はあるから、まだ【この世界】にいるはず…。」
独り言をブツブツと喋りながら、辺りを見渡すセーラー服の少女
--やっぱり日本語だ!!
瀕死とまでいかないが、体中が激痛で動かない透也は、俯せながら少女の声に耳を傾けていた
先程から少女の話す言語は、流暢というよりそのままの日本語だ
だからといって、宇宙人説を否定した訳ではない
高性能な機体のパイロットだ
高性能な翻訳機を持ち合わせていても、何ら不思議はない
いや、宇宙人の共通語が「日本語」だという可能性もある
そんな非現実的な可能性も、非現実的な環境に置かれた彼にとっては大いに有り得る話だった
「あ…あ、あの…。」
日本語を話すんだから日本語は通じるはずだ
現状を理解するため、何より達也を取り戻すためにも透也は身体を俯せのまま、少女に話し掛けた
しかし話し掛けたものの、声が篭っていて、さらに「あ」としか発音できていない
まるでうめき声をあげながら横たわるゾンビだった
気付く様子もない少女は、円を描くように辺りを見渡すと、再び戦闘機に乗り込もうとした
「ちょっと、待ってくれ!」
激痛が身体中を走りながらも、全身全霊で少女を呼び止める
さすがに気付た少女は、ハッと振り向き声の在りかを探す
先程、少女が辺りを見渡す限りでは人一人いなかった
いたとしても、Tシャツとトランクスしか身につけていない謎の死体が一体横たわっていただけ…
その死体が身をくねらせながら、こちらへ近いてくる
「きゃぁぁああー!死体が喋った!動いた!」
少女は驚きのあまりに、腰が砕けるように尻餅をつく
「いや、ちょっと。喋って動く死体は死体じゃないし……。」
とりあえず、取り乱す少女を落ち着かせようと正論を語るが
視線が低い所為で目の前の少女の細い脚と脚の隙間から、純白のパンティーが視界に入る
続きの単語が頭に思い浮かばず、透也の思考は完全にストップし、目の前のそれ一点だけを見つめた
少女も死体は、死体じゃないという結論にいたると、元死体の彼の熱い視線の先を辿る
彼が何を見ていたのか、すぐに合点すると同時
少女に殺意が芽生えて
「この変態ぃぃ!!!」
見事までの踵落としが彼の脳天に直撃した
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「そんな格好で道路に横たわって女子高生のスカートの奥を覗く…変態以外に何かありますか?」
「お、落ち着け!これには訳がある。巨大ロボットから逃げるのに必死だったんだ!」
卑下ずんだ冷たい視線で少女は透也を見下ろして
彼女の右手は、風でなびいてしまうスカートをしっかりと押さえていた
「少女のパンティーを2度も見た罰よ!!天誅ぅ~!」
左手で握りこぶしを作り、透也に振り下ろすが
軽々と透也は小さな握りこぶしを受け止める
「いやいやいや、2度も見ていない。1回目は不可抗力だったとしても、2回目はない!!」
ぐいぐいと押し迫る拳を押しのけて、透也は反論に出た
「踵落とした時に!また!見・た・で・しょ~!!」
『しょ~!!』の掛け声で右足を振り上げると同時に、透也の顔面が天を仰ぎ、そのまま後ろに倒れこんだ
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「で、その巨大ロボットはどこにいったか分かる訳?」
「知るか。」
顔を摩りながら透也は答える
少女の度重なる顔面攻撃に顔の形が変わってないか心配していた
「役立たず。じゃあね、変態。」
そう告げて、少女は再び戦闘機へと足を向けた
「お前は何者だ。」
透也はようやく質問を少女にぶつけた
セーラー服に機関銃は知っているが、戦闘機に乗るのは聞いたことはない
というより、そもそも日本人というか人間なのかどうかというレベルから聞き出さないといけない
150くらいの背丈に少し茶髪のツインテールの髪型
肌はやや日焼けしたような健康的な色
白地にワインレッドのような深い赤い色のリボンと、それと同色のスカートが特徴的なセーラー服
姿形はまんま、日本の女子高生だと透也は感じていた
「それは教えてあげられない。知らない方が貴方の為だから」
後ろ姿を透也に見せたまま、少女は答えた
静寂な夜と月明かり、その世界に溶け込めていない戦闘機が妙な景色を作り出し、少女の姿をより一層、幻想的に映し出していた
「なら、お前はあの巨大ロボットとについて知っているのか?!」
身体は地面に伏せたまま情けない姿で、透也は少女を引き止める
少女は足を止めて
「企業秘密。世の中知らない方がいいことがあるの。」
と笑顔で告げたが
その目は、可憐な少女の顔に似つかわしくないほどの激怒と憎しみの感情を映し出していた
その目と気迫に圧倒されて、少したじろいたが透也は引っ込む訳には行かなかった
「…あの巨大ロボットを知っているのなら…。」
全身に激痛が走るのを耐えて、立ち上がった
それが彼の決意の表れであるように、真っ直ぐと少女を見据えて、大地から身体を引き離す
「…あの巨大ロボットを知ってるなら、俺も連れていけ。大事な甥っ子を取り戻さないといけないんだ。」
静かに透也の声が、意思が少女へ伝えられた
少女は、眉を細めて少し考える
両手を握りしめて、透也は彼女の答えを待つ
まるで、愛の告白の返事を待つような胸の高鳴りが聞こえる
しかし、その高鳴りは、鼓動は、決して期待という感情を一切含んではいない
巨大ロボットに奇妙な戦闘機とセーラー服の女子高生
絶対関わりたくない事件に自ら首を突っ込む決断を下したのだ
もしかしたら、死ぬかも知れないし元の生活に戻れない…そんな恐怖が頭を過ぎった
しかし、頭を過ぎっただけで透也に迷いはない
自分に出来ることは少ない…いや、何も出来ないかも知れない
しかし、自分を変えてくれた達也をこのまま放っておく訳にはいかない
『達也を助ける』そんな使命感が今の彼を衝き動かしていた
少女の考えがまとまったようで、再び透也の方へ身体の向きを変える
「絶対無理。」
と告げる
「よし、そうと決まれば早速アイツを追いかけよう!!その前に自己紹介だな。俺は七海透也、よらしく。」
透也は少女に向けて右手を差しだし、握手を求めた
「聞こえなかった?絶~対~に無理!!」
少女は、それを無視して戦闘機へ乗り込んだ
鮮やかなブルーで統一された装甲は、流れるようなフォルム
両翼のハネは、鋭利な剣のように斜め前方に伸びて、逆翼となっている
主立った武装は見受けられないが、きっと何処かに隠れてるのだろうと
素人目線では推測しかできない
足廻りのバーニア達が上下左右に準備運動を始めるとまもなくして火が着いた
「…俺も連れていけぇ~!!」
垂直離陸を始める戦闘機の下腹部にある緊急時用ハッチの取っ手部を片手で握ると、透也の身体は宙に浮いた
《こらぁー!!『レイゼファー』に触るな!》
と少女の声が機体に取り付けられている外部スピーカーから聞こえる
彼女の心配は、透也が高度約40メートルから落下するしないよりも、機体が汚れないか汚れるかという心配
ー-友好的な関係を築くのは望めないな。
と透也は確信を得た
透也をお構いなしに、機体の高度を上げ続ける少女
街の夜景はまばゆいほどの光を放っており、普段なら美しい景色に心を奪われるが、今はそんな悠長な事を考える場合ではない
引き止めるつもりで機体に掴まったのだが、事もあろうか、あのセーラー服の少女はそのまま高度を上げ続けるのだ
とりあえず透也は、両手で、ステンレス製の取っ手を握り直して解決方法を探す
少し離れてはいるが、ハッチを開けるための緊急開放レバーがあることを確認する
腕を伸ばせば十分に届くのだが、片手だと吹き付ける風に煽られて、落下してしまう恐れがある
というより、透也の基礎体力は並以下であるため、取っ手に掴まるので精一杯だった
「お、おい!!助けてくれよ!シャレにならない!」
ぶら下がったまま、首だけを下に向けると、街の建物が小さく、一つ一つの家の明かりが星のように見え…まるで天も地も夜空が広がっていた
『高い』という意識が透也の脳内における占有量が増えると、自然と筋肉は膠着し始め、手には汗が滲み、『死』の恐怖が彼を襲う
巨大ロボットの襲撃時に受けたダメージと吹き付ける冷たい風、薄い酸素が彼の疲労を加速させる
どの道このままでは落下して死ぬのがオチであり、薄情者の少女に助けを求めても期待は薄い
ならば、最後の力を振り絞り賭けに出ようと決意し、透也は片手を離した
と同時にタイミング悪く突風が彼を襲い取っ手から両手が離れる
文字通り死ぬ気でもがき、奇跡的に何とか両手で目的のレバーを掴むのに成功した
一瞬、完全に身体が戦闘機から離れて空中を泳いでいたのを振り返ると、寿命が本当に縮んだ気がした
けれどまだ助かったわけじゃない
早く安全を確保したいと考え、緊急時ハッチ開閉レバーを握りしめて、体重をかける
プシュー!
とガスが吹き出す音が透也の耳に入ると、両手で掴まっていたレバーごとハッチの扉が開いたのではなく、もろとも吹き飛んだ
「嘘だろ…死ぬじゃん。」
虚空の夜空に、投げ飛ばされた透也は、誰に言ったのかわからない言葉を放つ
--あまりにも高い所から落下すると、それは『落下』ではなく、地球に『引っ張られる』という感覚に近いな。
そんな落下した感想を心に述べながら透也は、落ちていく
死ぬ間際は、走馬灯のように思い出が溢れだす
幼少の頃は、姉ちゃんによく虐められた
--お菓子もご飯のおかずも、自分の好きな物ならお構いなしに俺の分から略奪する。
それに対して、抗議をすれば
「男の子でしょ!」「私の弟でしょ!」
の次に「だからお姉ちゃんの言うこと聞きなさい。」
で押し返す…機嫌が悪ければボディブローか、蹴りがついてくる。
あんなわがままで暴力的な女がよく結婚できたもんだ。
けど、何だかんだで結婚式のウェディングドレスを着た姉ちゃんを見たときは嬉しかった。
--…大切な達也を…ゴメン。
子守すら出来ない弟でゴメン。
--俺は、最後まで迷惑をかけたまま死んじゃうのか。
母さん、いつも優しくしてくれたのに、お礼も言えなくてゴメン。
一番傷ついていたのは、母さんなのに、俺はそれを知ってて迷惑をかけた。
親不孝者の息子で、ゴメン。
--父さん…あんたに会えるのか。
会いたくないけど、やっぱり会いたいな。
親父って何なんだろうか、って何度も考えたよ。
だからそっちに行ったら……
そっちに行っ…
「嫌だ嫌だ嫌だ!!俺はまだ死にたくないんだー!」
走馬灯が一通り終えるが、死を受容できない彼は泣き叫ぶ
かといって、落下のスピードが緩むでもなく
時間が止まるわけでもなく
虚空の夜空に誰にも届くはずのない声が響いただけで、刻一刻と人生のタイムリミットが迫っていた
手足を伸ばして、大の字になり重力を身体全体で感じながら
落下していく
段々と地上の夜空がはっきりと近くなるのがわかる
--もう終わりだ。
人生の終わりを覚悟したその刹那…
「これくらいで泣いてどうするの!男の子でしょ!!」
外部スピーカーを通してではなく、セーラー服を身に纏う少女の生の肉声が聞こえた
その口調、はっきりした声は姉の沙夜子そのものであり、一瞬姉が目の前に現れたかと錯覚した
声の方向を向けば、少女はさっきの戦闘機のコクピットを開いて、両手を腰に当てて仁王立ちし、コクピットシートに立っていた
対衝撃ベルト…いわゆる車でいうところのシートベルトを足に巻き付けて立っている
大体、飛行中の戦闘機の上に立つものじゃないし、バランスを崩して落下でもしたらただじゃすまない
異常とも言えるその姿だが、死を目前にした透也にとってまるで女神が舞い降りたような神々しさを纏い、闇夜を照らした
「ほら、時間がないよ。」
「早く助けてくれぇ!!」
「いいよ。そのかわり貴方は、レイゼファーに乗った瞬間、『旅行者』になるの?いい?」
「なんでもするから!早く!」
「はっきり言って死ぬ方が楽よ?それでも貴方は、貴方の現実に終止符を打てる?」
「おしゃべりは後にしてくれぇー!」
透也が少女に向けて、手を伸ばす
あと数十秒で地面に激突する所まで来ている
少女も余裕しゃくしゃくと、一瞬顎に手を当てて、考えるふりをしてその手を差し延べる
交錯した二つの手がお互いを握りしめると、透也の身体はコクピットの引き寄せられて、無事投げ飛ばされるように収納された
地面寸前で機体の先端角度を上げて、重力落下から推進飛行へと切り替える
バーニアの炎が街の道路を焼き付け
機体を傾けたり高度を調整して、迫り来る家の合間をギリギリで翔けていく
街を抜け出して、また再び雲一つない夜空へと駆け登り
大きな満月が戦闘機のブルーを美しく照らした
「いつまで、抱き着いているつもり!!変態!」
「仕方ないだろ!」
コクピットシートに全体重を預けるように座る少女の上に、透也は乗りかかり、腕はしっかりと彼女の首に巻き付いていた
「貴方の名前、まだ聞いてない。」
「お前が聞いてないだけだろ。…七つの海に透ける也と書いて、七海透也だ。」
「変な名前ね。
私は鳳莢。鳳凰のホウに、莢豌豆の莢。」
「お前の言い放った最初の一行をそっきりそのまま返すよ。」
「まだ空の旅が忘れられないのかしら?落ちる?」
「…遠慮する。」
遅くなりました(゜.゜)
無事三話目投稿です!
ちょっと確認をできてなくて誤字脱字が多いかもしれません(゜.゜)
後日、確認修正するかもなんでご了承お願いします(゜.゜)