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第一話【不慣れな、baby-sitter】

目を輝かせているのは、達也と呼ばれる未確認生物


まだ泣いたりわめいたりはしてないが、些細なことでも一度、混乱を招けば手に負えない


そうなると母にしか頼れないのだが…どっちみち、つきっきりで世話は出来ない


どんな展開になろうが、『母に子守を頼まなければならない』


この事が透也を悩ませた


--もう2年もろくに顔を合わせていない


別に嫌いとかそういう拒絶意識はない



単に苦手なのだ


それは俺が勝手で一方的な思い込みかも知れない


22歳にもなって散々迷惑かけて、何にも解決できてないまま、今日顔を合わせる…はずだ



ー-怒られるだろうか?


--何事もなかったように振る舞ってくれるのだろうか?


--それとも軽蔑と卑下の眼差しで俺を見るだろうか…



少し考えていたら、達也が遊んでいたボールを口に頬張る



「おいおい…口にいれるのは駄目だって言ってるだろ?」


唾液だらけのボールをつまみ出し、やれやれと透也はため息をついた

ボールを返して貰おうと透也の指にしゃぶりつく達也


一体全体、何故こんなことになってしまったのだろうか


目の前にいるのは、純白の心と無限の可能性を秘めた…

透也自身とは真逆の位置にいる存在


その輝かしさ故に目を背けたくなる


『羨ましい』と透也は単純に思った


その無限に広がる可能性が特に


--出来るなら、俺も過去に戻ってやり直したい…。


そんな叶いもしない野暮な願いについて、思考を巡らせていた




◇◆◇◆◇◆◇◆


前略


姉上様、如何お過ごしでございますか


もうかれこれ、姉上様が南国の空へ飛び立って4時間が経った頃でしょうか?



やはり、私にはベビーシッターなぞという高度な技術を要する職業は、向いておりません


部屋に閉じこもって、無になり、極限まで忍耐力を鍛える…


強いて向いてる職業があれば、きっと仙人しかありません


まぁ仙人といっても、教えれることは何一つありませんが…


話が逸れました



ところで、達也くんは排尿と排泄を同時に行うのですか?


そんな芸当ができるならもっと早く教えていただきたかった所存でございます


もう少しで、排泄物の処理をしていた私が、尿素たっぷり含んだ液体を浴びる所でした



…早く帰ってきてと、ただただ切実に私は願います



そう台詞を締めくくると受話器を置く


留守番電話だから、姉の返答はない


嫌がらせの伝言を残して、達也を見る


静かな寝息を立てて眠っている


リビングの中央に引かれた彼専用の布団


その上で小さな胸を上下させている…まさに生命の、人の原点を顕すが如く、か弱くも力強い姿


透也はいつの間にか、小さな彼に見とれていた


今の一瞬だけではない


今日、彼と出会って無意識のうちに、達也を見ていた



--何か…、俺の何かが変わるかも知れない。



大袈裟な表現かも知れないが、透也の心情は今日一日で確かに変化している


2年目のまだまだその世界の新入社員だが

曲がりなりにも(残念な事だが)

彼は、立派な引きこもり型ニートである


沙夜子の乱暴なお願いで、部屋から出らざるを得ない事態になってしまったが


2年という月日の重い扉を開いたのは沙夜子ではなく、達也じゃないか…と本人は感じていた


しかしなぜ、赤ん坊が自分の心の鍵を持ち合わせていたのかは、全くわからないのだが…


そんな期待とも不安とも判断できない複雑な感情が透也に芽生えていた


すっかり自分の世界に入り込んで思考を巡らせていると


玄関扉が開き、外からの空気圧が家中を少し揺らす


家には透也を含めて二人しか住んでいないのだから

それは、母が帰ってきたということを知らせる振動だった



母の「ただいま。」の声はない


何故なら、いつも帰ってきても家には彼女、一人だから


二人いるはずの家から、「おかえり。」の返事が無くなってしまってから、彼女は「ただいま。」をやめた


誰も居てなくて返事がないのと


いるはずなのに、返事がないのとでは辛さが違いすぎた



だから、いつも通り家に入り、玄関扉の鍵を閉めて


無言のまま、リビングに向かうためせっせと廊下を歩く


リビングの扉を開けて片手に持つスーパーの袋を下ろすと、聞き慣れない…すっかり聞き忘れたあの言葉が聞こえた



「おかえり。」



リビングのテレビに顔を向けたたま、透也が母にそう言った



「ただいま。」


戸惑いの様子もなく、透也の母…槙子まきこから返事が帰ってきた


沙夜子からの連絡で透也がリビングに居ることを予想していたのだろうか?


どのみち、母の考えていることはわからない…と透也は、思考を停止させる


相変わらず、透也の顔はクイズ番組を映し出すテレビの方向へと向けていた


テレビは見ていない


母と対面するのが気まずくて顔をリビングの端へと背けたいのが本音だった



槙子は買い物袋から、食材など取り出して冷蔵庫へと移動させる



二人の空間には無言が続く


まだ槙子が帰ってきて3分も経ってないが、透也は凄く長く時間を感じていた


このまま黙って、自室に戻ろうとも考えた


しかし、身体が動かなかった


それをしたら自分自身で、また自分の殻に閉じこもってしまうのがよく分かったから


以前なら、こんな風にも思わなかったのに…


やはり、今日一日で達也から何らかの影響を受けている気がする、と透也は確信した



「ご飯はどうするの?」



不意に投げ掛けられた言葉は、静寂を破った


外の植え込みに住み着いている夏虫の鳴き音も

司会者のフリに必死で喰らい付く解答者の声も


静寂を成していた音達も、静まった気がした






「た、食べるよ。」



スムーズに答えれたかどうかは、透也には分からなかったが、問題はそこではなかった


端から見れば親子の何気ない会話だろう


しかし、冷戦状態にあった大国がやっと停戦協定への一歩を踏み出したような


そんな二人の間の問題を…ほんの少し解決の方向へと歩みだすことが出来た会話だった



透也の言葉を聞いて、槙子は「ふふっ」と少し笑ったような声が

透也の背中越しに聞こえた



◇◆◇◆◇◆◇◆



食卓に座る


今、向かいには達也じゃなくて、槙子が座っている



沙夜子の美女としての遺伝子は、槙子からのものだろう


それほどまでに、年齢を感じさせない若々しさと、黒いロングの髪が際立つ整った顔立ちをしている


槙子はよく「和風美人」と言われていた


透也の知りうる女性の中でも、槙子ほど着物が似合う女性はいない


そんな沙夜子とまた違う美女が、七海家には…いたはずだった


透也がちゃんと槙子の顔を見たのは、2年前


2年という月日は、確かに短くはないが槙子の顔からはそれ以上の時間が流れたように感じる


まるで未来の彼女が現在にタイムスリップしてきたかと思わせるほど、彼女の顔は老け込んでいた


仕事に疲れているだけでは、こんな顔にはならない


原因ははっきり分かっていた


これは透也が自分の殻に篭っていた代償

自分のまいた種の痛みを初めて見る


…考えが、思考が、頭を過ぎると胸が酷く苦しくなってきた



「なにさっきから私の顔をジロジロ見てるの。早く食べなさい。」



母、槙子の一言で思考が停止…というより吹き飛ぶ


吹き飛ぶと言っても、いい意味での吹き飛ぶではなく


今はとりあえず頭の隅の彼方へ置いて置くために考えを吹き飛ばしたというのが現状である



「あぁ…。い、いただきます。」


おかえり。


いただきます。


こんな簡単な挨拶もスムーズに口に出来ないなんて…本当に今までの生活はどうかしてたな、と透也は思った


テーブルに出されたカレーライスを一口


2年ぶりの温かみのある母の味は美味しかった


しかし、それ以上の感慨深い気持ちは沸いて来ない


なぜなら、会話もない雰囲気が今もなお続行中だからだ


料理の味を構成させる要素の一つに、「シチュエーション」も大事だな、と透也は改めて思う


槙子は、顔色を変えず黙々とカレーを食べる


本当に顔から何を考えているのか察しがつかない


--俺のことどう思っているのか。


22歳の息子が母に対して聞く話題にしては少々、問題を抱えるが


透也は目の前に座る母を時折見ながら、その話題をいつ切り出そうかタイミングを計っていた


気がつけば、深夜を過ぎている


達也は寝言(言葉になっていないが)

をあげて、槙子と透也は何も喋ることもなくテレビを見ていた



槙子は食卓の椅子から立ち上がり


「お風呂、入ってくる。」

とだけ言い残し、リビングから去っていた


まだタイミングを計っていた透也は、『お風呂から上がって来たら絶対に聞き出す』という自分ルールを設けて、その時を待つ


テレビの音よりも、柱に掛けられた壁時計の秒針の動く音がリビングに響く


テレビは深夜の通販番組を映し出している

もちろん、透也は見ていない


『見る』というより『眺めている』が正しい


そんな眺めていた視線も焦点が合わなくなる


この時間帯は、透也にとって活発な活動時間である


がしかし、本来眠っている時間に起こされたうえに


今日一日で慣れないことを沢山したものだから、疲労が大きい


瞼にかかる重力が一気にのしかかってきた


起きなければ、という意識はあったものの普段から『忍耐』から掛け離れた生活を送る透也は、一瞬で睡魔に圧倒される



--今日一日は色々とありすぎて疲れたんだな。


と誰に向けられたか、わからない思考に納得して、透也はソファにへたり込んだ



◇◆◇◆◇◆◇◆



朝、目が覚める

達也の泣き声に起こされた


母さん早く止めてくれ、と透也は眠りながら懇願するが止まる気配はない


やれやれ、とソファから立ち上がり背伸びをする


少し背中が痛い

ちゃんと布団で寝ればよかったな、と後悔


隣に手足をばたつかせ、布団で泣き叫ぶ達也


オムツを開けば、どこからそんなものを出したのだ、というくらい立派な異臭を伴うアレ


古いオムツを丸めて、ごみ箱に入れて


すかさず新品のオムツをお尻の下に引くために両足を揃えて持ち上げる


その一連の流れが彼の中のスイッチオンなのかどうか、透也には解りかねるのだが


達也の足を持ち上げた瞬間、彼の股間から尿素を含む水分が放たれた


透也の顔面へまともに喰らって、固まっていると


まるで狙った罠が見事に引っ掛かった相手を嘲笑するように達也はけらけらと笑い声を上げながら機嫌を取り戻した


--もちろん、赤ん坊の彼に悪意はないのは、本人もよく理解しているが。


朝の洗面にしては、些か衛生面において配慮にかけるものだが、寝ぼけていた意識がすっかり覚めた



昨日、『二重排泄ダブルバスター』の対策について学習したつもりがまんまと寝起きの油断しているときにやられた



◇◆◇◆◇◆◇◆



時計の短針は、『10』を指した頃


ミルクを飲み終えた達也は、再び夢の世界へ飛び立っていった


蝉が一斉に合唱し始めて、昨日より強烈な日差しがカーテンの隙間から照り付ける


テレビに映し出しされるニュースは、今日一日、猛暑日となりますと流れている



「はぁ…。」



と透也はため息


母はもう仕事に出たらしく、達也のミルクと透也の朝飯が食卓にあるだけで、姿はない


昨日は、結局何も会話ができず完全にタイミングを逃してしまった


二人の空気に距離があって、それを押し拓けるのは労力がかかりそう


慣れてないことは急にするもんじゃないな、と透也は感じていた


心労のせいか…大分眠い


大股を開いて、両腕を後ろに垂れ流す形でソファに身体を預ける



「はぁ…。」



と透也のため息は2度目


次は、すっかり昼夜が逆転してしまった(正確には昼夜が元に戻る)生活環境の激変に身体が辛いという悲鳴


昼寝にしては早い時間帯かも知れないが、彼の頭にはすでに寝るか寝ないかの葛藤が起きていた


熟睡しているはずの時間帯に起きているのは辛いことこの上ない


しかし、それでも耐えて瞼を開いている


忍耐知らずの透也が眠らないのには、ちゃんと理由がある

眠ろうにも、達也が気になって眠れないのだ


眠っている間に、何かあれば大変なことになる

何度もあくびをしながら母を待った


今までの生活と一番違うこと


それは生活に『目的』

が出来たこと


時間の中に浮かぶように身を任せ無産的生活を謳歌し、欲求を満たす以外に特にすることもなく…


それは最早、『生活を送る』というよりも『時間を送る』という奇妙な文章だが、表現としては正しく的を得ていた


そんな毎日に、突然『子守』と『帰りを待つ』という目的が追加されたのだ



何もしなくていい


のと


何かしなければならない



のは大きく違う


そんな目的に縛られた(大袈裟な表現だが彼にとっては)


生活は嫌という感情は、あまり彼自身が思うよりもなかったのだろうか?


2日目の時点で多少なりと慣れて、特に拒絶反応を起こすこともなく現実を受け入れていた


しかし、問題は他にある


目的に縛られること…つまり、子守をしながら母の帰りを待つということをしながら

今まで通りの彼のライフスタイル『時間を送る』を貫くのは苦痛以外の何物でもない



現に睡魔との激闘中で、彼の体力ゲージ(意識が飛ぶ時間)は残り僅かとなっている


『何もしない』がこれほど苦痛で眠気を催すものだと思わなかった



--では、何かすればいいじゃないか!という考えに至るまで、そう時間はかからなかった


◇◆◇◆◇◆◇◆



達也は、はしゃいでいた


それは、まだほんの僅かな時間しか共にしていない透也でも分かった


手足をばたつかせながら、透也の首筋に後ろから噛み付く


まだ、歯はないので、噛み付くというより…しゃぶりつくという感じだ


「くすぐったい…テンション、ハイだな。達也くん。」


タオルで首筋についた唾液を拭い去り、背中に背負った剣を握りにいくように、腕を伸ばす


達也の頭にある日差しよけ帽子を鏡越しで被り直す


透也もつばを後ろに向けた野球チームのロゴが刺繍された帽子を被り準備を整えた


「い、いってきます」


誰もいない家に噛みながらも、挨拶と一礼


背中に達也を背負い外へ出るその姿は…当の本人からすれば、不本意な話だが

ベビーシッターそのものだった




◇◆◇◆◇◆◇◆



家をでること5分


透也は勢いで行動したことに、激しく後悔していた


家でじっとしていれば睡魔が襲ってくるので、何かしようと思考を巡らせた結果、『散歩』という選択肢が弾き出されたわけだが


真夏日の炎天下でひたすら歩くのは、愚行に近い行為


それでなくとも2年という歳月、外界との接触を絶ってきたのだから、いきなり外に飛び出す行為は体力面だけでなく精神面でも辛い


--暑さと眠気で頭がどうにかしていたんだ。



透也はそう自分で納得させて、家から駅前まで続く長い、やや勾配のある坂を下りきった


財布から200円を取り出し投入

透也が愛飲しているお茶を買い、半分近くまで一気に喉に流し込む


お茶が欲しくて、再び首筋に噛み付く達也


透也は、やれやれとお茶を後ろに背負う赤ん坊に飲ませた


ほとんど、お茶は達也の口からこぼれて、透也のTシャツの肩をびしょびしょに濡らせただけであったが、達也は満足げにお茶の入ったペットボトルを手で押し返し、拒否を示した



「さて、どうしたものか。」


びしょびしょでお茶の香りがするTシャツについて、思考していたのではない


十分に水分補給したところで、どう家に帰ろうかと思考していた


まだ家を出て10分も経っていないが、透也の切るカードは『帰宅』の2文字以外、存在しなかった


このまま下りてきた坂をまた上るのは、かなりの決断力を要した


彼の残体力と消耗体力を計算すれば、坂の4合目くらいで、彼の足は止まるという結果が導き出され


坂を上るという選択肢は、消失した


帰宅ルートは、来た道を折り返す以外にもう一つある


『バスで帰宅』だ


というより、透也の頭に『帰宅』というワードが過ぎってから、すでにこのバスフラグが立っていた



駅前から、グルッと町内を一周するバスは、ちょうど道程の半分くらいのところで家の前で停まる


大分、大回りしなければならないが、この暑さの中歩いて、万が一達也が熱中症になってしまってはシャレにならんのである


と、悪い都合を背中に背負う赤ん坊に押し付けるようにして自分を正当化した



◇◆◇◆◇◆◇◆



駅前のバス停には、日陰はあるものの効果的な涼しさは得られなかった


円を描くように町内を走るバスは、現在地から見ると目的地はちょうど反対側


国際文化会館経由の右回りと

市民プール経由の左回りがあり


到着時刻は、厳密にいうと右回りの国際文化会館経由の方が2分ほど早いが


先にバス停に到着した市民プール経由の左回りの経路をとるバスに乗り込んだ


2分ほどの時間なんて気になんてしない


それよりも早くクーラーで冷えた座席に座る事で頭の中はいっぱいだった



背中に達也を背負う透也は、汗だくになりながらもバスに乗り込む


扉がパタンと閉まると、うるさい蝉の音が乾いた夏の外気と共に車内から閉め出される


それと同時に効き過ぎたクーラーの冷えた空気が熱を持った肌を癒し、そして肺を満たす


きっと世間では夏休みなのだろう


車内には市民プールまで待ち切れず半分水着姿の小学生の団体や、ラフな格好をしたカップルの姿が目立つ


逆に文化会館経由を選択すれば、おじいちゃん、おばちゃんの多い車内になっていただろう



透也は車内の一番奥にある座席まで移動し始めた


バスは動きだし、揺れる車内の中、うまく体勢を取りながら、一歩一歩と確実に進んでいく


一歩踏み込む毎に、他の座席に座る人達は、物珍しそうに透也と達也の姿を見る



--俺のじゃない。あんまり見るな。



と一人呟くが、誰にも聞こえない音量だったので誰も気付いてない


透也は、少し不機嫌になりながらも達也を前向きに抱っこさせて、目的の座席へ腰を下ろした


窓の外を見ると、道路脇に植えられた街路樹達と、大きな白い雲と7月の晴天がよく似合っていた


達也ははしゃぎ疲れたのか、赤ん坊の本能にしたがってなのか絶賛爆睡中



「【次は~善道寺前~です】」



機械的な女性のアナウンスが車内に響く


都内とは行っても、都心部から外れたところにあるわけで、ビル群などは主立って建っていない


新築の住宅街が多いこの町に、ボロボロの囲いに囲まれて、その寺はポツンと存在している


昔、悪い神様がこの辺で暴れていて、見兼ねた寺の住職が、説教したことにより、善い神様になったというエピソードが、この寺の名に由来する


だからこの町の子供は

【イタズラする悪い子供は、善道寺に閉じ込める】

と脅されて育っているはずだ




そんな寺のエピソードはいらない


大事なことは、今その寺の名前を聞いて嫌な予感が彼を襲ったということだった


透也は、寺に近付きたくなかった


いくら、普段からバスを利用しないといっても、深く考えれば気付くはず


--きっと暑さと疲れで思考回路がヒートしているんだ。



と彼一人で話に決着をつけると同時にバスは善道寺前に着いた


バス停には白一色のワンピースと少し小さな麦藁帽子が被った若い女性が片手で鞄を持ち、もう片手で風に揺れる帽子を押さえて立っていた


透也はその女性を目にして息を呑む


美しさに見とれていたのではない…

彼の悪い予感が見事的中したからだ


その肌は際立つように白く、日差しを反射していた


ドアが開き、バスに乗り込むその姿でさえ優雅で美しかった


車内の老若男女問わず、彼女の一挙手一投足を目で追っていた…


--最後列に座る、赤ん坊とそれを抱いている男を除いて


バスは、最後列の座席以外は空席はないので必然的に彼女は、そこへ向かう

バスの長さはそんなにない


したがって彼女はすぐに透也を認識した


目と目が合いながら、お互いの距離が近付く


目が泳いでいた透也と対照的に彼女はまっすぐ見据えるように透也を見つめている


バスが再び走り出して、揺れると同時に彼女は透也の目の前で立ち止まった



「こんにちわ、透也くん。久しぶりね。」



2年前まで恋人だった彼女からのファーストコンタクトだった

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