45,天使
雪が振り始め、目的地の松本家まであと2キロと言った地点で1体の影と出会った。
無論、殆どは無視してここまでやってきたのだがこの陰に違和感を覚えたからだ。この陰から松本菊花の魔力を感じる。
「なんで・・・お前たちが」
等身大の至って普通の陰、なぜこの陰からお姉ちゃんの魔力を感じるのか不思議だが、今の自分にそれを解明する方法はない。ただ、量産型の陰がお姉ちゃんの匂いを出していると想像するだけで吐き気がする。
話は戻るがさっきの駅の電光掲示板で最近、陰の行動が活発になっていると報道されていた。その理由は石化した紅から陰が産まれ、それが全国に散らばりつつある、というものだった。私は気にしなかったが、ここで問題なのは紅が産み出した陰というところだった。
その陰は闘争を知らず、乾いていた。血を、欲していたのだ。
聖奈は陰に向かって火柱を立てたがその中から何事もなかったかのように陰たちは出てくる。陰は飛び立ち上空から攻めてくるが、全て簡単に避けることが出来た。
「やっぱり単純」
でも何故魔法が効かなかった?決定打になり得る一撃だった。
「久しぶりに使うね」
聖奈は太刀を取り出した。
鈍く光るその刃身は陰を確実に捉え、両断した。――がそれでも陰は反撃してきた。
それに不覚を取り、腕を貫かれた。
「ッ!・・・両腕ないと使いづらいのに!」
しかし程なくして陰は消滅し、辺りはまた静寂に包まれた。久しぶりの戦闘、久しぶりの怪我。大丈夫これくらい魔法少女の治癒力なら・・・
「・・・あれ?」
視界が歪み、霞み、焦点が合わない。毒であっても解毒の処置はした。毒じゃない、これは魔法、あの陰が独自で持っていた一太刀浴びせれば体を蝕まれる魔法。
「使用者を倒したのに・・・消えないッ」
聖奈は一瞬、腕を切り落とすか脳裏をよぎったが、侵食は既に顔の一部まで進攻しており、腕を切ったところで意味はないのは明白だった。
聖奈はコンクリートの塀を頼りにもたれかかりながら前へ進む。
「あと・・・少し・・・な」
聖奈は進むしかなかった。
―――
もう片目は潰れ、前は殆ど見えない。侵食は肉体を蝕み、肥大化し、人とは思えない造形になっていた。そして運がいいからか、ここまで来るのに1体とも陰に遭遇しなかった。
「・・・くっ」
どうやら電柱に当たって倒れてしまったらしい。積もった雪のお陰で少し衝撃が緩和されて良かった。がもう立ち上がる体力なんてない。あと少し・・・少しなのに。
あぁここで死んじゃうのか。冷たい、寒い、暗い、痛い、怖い。ごめんなさいおじいさん。あんなに応援してくれたのに、私やりきれなかった。あぁ後悔が止まらない。お姉ちゃん、お姉ちゃん・・・一人にしちゃって――
「――ごめ・・・ん・・・」
「何してるの、あなた」
声が聞こえる。無理やり目を開けてみるとその人は裸足で、パジャマ姿の女性。どう考えても雪の降る、しかも陰の現れる夜の外でする格好じゃない。顔は・・・霞んで見えない。聴力もずっと耳鳴りがしている、その中で微かに聞こえる。
「・・・あ、」
その女性は何かに気付いたように私の前でしゃがみ込んだ。
春日井つるぎ、アリス、ミスアバランチではない。ということはこの人は魔法少女ではない。
「早く・・・逃げたほうが・・・いい、ですよ。陰が、いつ襲ってくるか・・・」
声ももう出なくなってきたが、なんとかその人にそう伝えた。
ここで死ねば、明日の朝に誰かが私の死体を見つけ、大事にするだろう。そしたらきっとお姉ちゃんのお母さんも見に来る。その時に見られたときのために笑って――
「――!?」
その女性は私を担ぎ、歩き始めた。そして
「生きていてくれてありがとう・・・ありがとう・・・」
そして私は気付いた、この女性が誰かを。何故こんな姿で出歩いていたのかを。私は間違っていなかった、もう少しでも遅ければどうなっていただろう。ここまで頑張ってきて良かった、ここまで歩いてきて良かった。最後の力を振り絞り、泣きながら私はこう言った。
「お母さん―――」
ここまで読んでいただいた皆さまへ。読んでいただき本当にありがとうございます。
自分自身も荒いとはいえ1つの作品を作る、という体験ができて本当に良かったです。調子次第では今後も何か作りたいと思っているのでよろしくお願いします。気に入ってくれたらブックマーク、評価もお願いします。
どうも、有里瞬でした。




