34,陰と影
「きたな・・・」
秘密の洞窟に入ってくる人影がひとつ。それは菊花だった。
「ここにいると思ったよ、もう少し早く来たかったけど肉体を乗っ取るのに遅れてしまって」
それは菊花と言うには少し違うかもしれない、少し中身が禍々しく、まるで現代を生きている風貌ではない。
「なにしにきた、私を殺しても、アレは止まらんぞ」
「そんなことに興味はないよアリス。ただお前の片割れを見つけたなあと思って」
「そんなことか、最近体の調子がいいのと、未来が見られなくなったのはもう一人の私が覚醒したのか」
「そんなに素っ気なくするなよ、本当は飛び跳ねるほど嬉しいんだろ?地上に出たら何をしようか夢中になってるだろ?伝わってくるぜ」
「ふん・・・殺気立っているな。私を殺して500年前の鬱憤でも晴らすか」
菊花はアリスの首元にナイフを突き立て言った。
「ちげえよ脅してんだ。紅の契約書の場所を教えろ、じゃないと」
「じゃないと、殺すか?何故現代の人間を生かそうとする?奴らは私達をこんなふうにした末裔、種族だぞ。私達より下等な奴らを救って何になる」
「先輩との・・・約束でね。私はお前より最後まで地上で生きた魔女だぞ。この世界は愚かで、醜くて、何度も歴史を繰り返す、ただそれでも人は生きることに執着してきた。そんな努力をお前より見てきた私が言うぞ。人が生きていく、その過程は魔法ではどうにもできないほど綺麗で過酷だけれども素敵なものだ。いつまでも破滅にしか執着していないお前にはわからないだろうが、人類は弱くない、私達なんかより劣っているはずがない」
「その言葉、本気だな?」
「当たり前だ」
「あの頑固なお前がそこまで言うとは・・・ククッ面白そうだ。お前に賭けよう。自覚せよ、お前の選択に人類の命運が掛かっていると。紅の契約書は、あっちじゃ」
「アリスも、人のこと言えないけどね」
菊花はそう言い残してエレベーターに乗っていった。
その背中を見てアリスはぽつんと呟いた。
「この世は魔法のおかげで均衡を保ち、今まで成り立ってきた。だがその意見は私達のような古臭く、頑固なままの古巣が、この世を良くも知らない者が言っておるだけじゃ。誰も・・・魔法のない世界を知らぬのにな」
有里瞬です。
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