間奏二、ランチタイム
アタシは基本的に誰とでも仲良くなれた。いつも笑ってるし、誰とでも話が合う。でもお昼ごはんは一人で食べたいタイプだ。アタシは松本菊花、魔法少女である。
放課後、アタシはいつもあえて遅く帰る。万が一にも学校に残った学生がいると、陰に襲われる可能性があるからだ。夏に陰が出る大体の時間は七時辺りから。
「まぁ六時だし、もう帰るか」
通りかかったのは美術室の前。絵を描いている少女が一人。それが有栖、長門有栖。
とっくに下校時間は過ぎている。それなのに彼女はひとり残って絵を描いていた。菊花は教室の扉をコンコンと叩いて下校時間だと通告した。もし陰と出くわしたら迷惑になるのは菊花の方だからこうして毎日やっているのだ。
「帰りたくないんです」
言い方的に、この絵が完成するまで、ではなさそうだ。
「このままだと保健室で寝ることになるぞ」
「それならそれでいいです」
ここまで頑固だと帰らせるのは骨が折れるぞ。
美術室に入って少女が描いていた絵を覗いてみた。そこには三人の人が描かれていた。構成的に家族の絵画といったところか。
「上手いんだなぁ絵」
素人のアタシから見ればただのうまい絵にしか見えない。
「この絵、絶対完成しないんです」
どう見たって完成間近に見えるが・・・
横目に少女を見るととても寂しそうな目をしていた。
――こりゃ聞いちゃいけないな。
話を聞くと、どうやら転校生のようで一週間前ほどに引っ越してきたらしい。引っ越しの理由は絶対に教えてくれなかった。
「んじゃさ、アタシも今日保健室で寝てくよ」
眼の前で魔法少女に変身するのもいけない。寝た時間に適当にパトロールに行こう。
その時に有栖がとんでもなく驚いた顔をしていたのをアタシは見逃してしまった。
―――
「松本さんは何で学校残ったんですか?私なんて置いてって帰ればよかったのに」
「一人ぼっちで寝るなんて寂しすぎるだろ、どうせなら二人で寝た方が良い。そっちのほうが野外学習みたいで楽しいじゃん」
「私、野外学習行ったことないです」
相当難あるご家庭のようだ。簡単に踏み込むわけには行かない。けど有栖の背中はとても小さく見えた。まるでまだ子供みたいな。
「有栖さ、今がどれだけ大変かアタシにはわからないけど、その重みをさ、一緒に分け合ってくれる人だってこの世界にはいるんだよ。どれだけ辛くたって、どれだけ大変だって、そいつとご飯食べて、話して笑い合えばきっと有栖もちょっとばかし今が好きになると思うよ」
有栖は布団にくるまって、震えた声で言った。
「じゃあ松本さんがその人になってください・・・」
「もちろん」
その後、色んな話をした。たくさん話して、笑って。
あぁ、有栖って本当はこんなに素敵に笑う子なんだ。
「おやすみなさい、菊花」
「おやすみ、有栖」
有栖は昔から友達といえる人がいなかったようだ。ずっと絵ばかり描いて小中学校を生活していた。
初めてなんだろうな、こんなに胸の内を曝け出したのは。だってめっちゃ安らかな顔で寝ている。
「おやすみ、有栖」
その後、魔法少女になって夜の空を駆けた。これがアタシと有栖の初めての出会い。その日から有栖とアタシは昼食時に屋上に集まり、いつも一人で食べていたランチタイムを始めて二人で食べた。
案外、こうやってワイワイ食べるのも悪くない。
有里瞬です。
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