日食
年が明け、テレビをつけると
どの局にザッピングしても新年向けの
バラエティが放送されている。
ネットでは昨日の輝夜の動画が
拡散され、大きな話題になっていた。
その場に居合わせた人が
その異様な様子を書き込んでいて、
輝夜に同情する声がほとんどだった。
中には占い師を知っている人も現れ、
その悪質な手口が次々と明らかになる。
自分も被害を受けたという女性が
数名声をあげ、被害内容を告白した。
どの女性も不妊症や不妊治療に
悩む人ばかりだった。
輝夜が復帰ライブを控えている事もあり、
事務所では心配したファン達からの
電話が鳴り止まなかった。
輝夜は新年からサングラスをかけ、
深くフードを被り、ランニングしていた。
家に篭ってじっとしていたら
ずっと陽叶の事を考えてしまう…
とにかく無心になりたくて
早く時間が過ぎて欲しくて
ただひたすら走った。
1月5日からは
ライブ会場での通しリハーサルが
始まった。
真っ暗な会場の中で
輝夜だけに照明が灯る。
その景色は、
あの森のようだった。
陽叶と初めて出会ったあの日のことを
ぼんやりと思い出す。
記憶の中でも陽叶の太陽のような
笑顔がとても眩しくて、
頭から離れない。
思い出せば思い出すほど
陽叶への想いが強くなっていく。
輝夜は、陽叶と出会ってからずっと
今まで感じたことのない
胸を締め付ける感覚があった。
その感覚は、逢えない時間と共に
強くなっていった。
俺は陽叶が好きなんだ。
そう自覚してから、恋をテーマにした
曲に気持ちを込めて歌えるようになった。
今まで友達とか
専属カウンセラーとか
ずっと誤魔化してきたのかもしれない。
君が離れていくのが怖くて
繋げ止めておきたくて。
でももう正直になるよ。
俺には君が必要なんだ。
だから陽叶、
聞かせてくれないか?
一緒に記者から逃げたあの日、
君から手を繋いでくれたよな。
教えてくれないか?
君も俺と…
同じ気持ちなのか、を。
週刊誌が発売する前日の
1月7日。
日野さんから連絡があり、
会って話がしたいとのことだった。
リハーサルが終わり、
夕方に約束の洋食店へ向かった。
店に入り、日野さんを見つけると
隣には見覚えのない年配の男性と
陽叶の母が座っていた。
輝夜「こんばんは、お待たせしてしまい
すみません。葉月輝夜と申します。」
日野「輝夜さん、突然ごめんなさいね。
こちらの方は陽ちゃんのお爺様です。」
祖父「輝夜さん、初めまして。孫が
大変お世話になっているようで…」
陽叶の祖父はそう言うと、
深々と頭を下げた。
脇に座っている陽叶の母は
今にも泣きそうな顔をしている。
輝夜「頭を上げて下さい。お世話に
なっているのは僕の方ですから。
どうぞ、お掛けになって下さい。」
日野「さ、旦那様。お座りになって。」
祖父「ありがとうございます…あの…
この度はうちの娘がご無礼を…本当に
申し訳ございませんでした。」
祖父の言葉を聞き、
陽叶の母は無言で頭を下げる。
祖父「娘はあの占い師に出会ってから
変わりました。陽叶がうまれて暫くは
私なりにあの女から距離を置くように
説得していたのですが…
陽叶が父親を追い出して新しい父親が
欲しいと頼んだと聞いた時、孫まで
洗脳されてしまったと思い、もう既に
手遅れなのだと…私は絶望して
娘たちとは関わることをやめました。
まさかあんなに小さかった子が…
父親を思ってそんな事をしたなんて。
私がもっと手を差し伸べていればと
後悔してます。
私は娘を甘やかしすぎました。
仕事で父親の役割を果たせない分、
何でも買い与えることが愛だと…
寂しさを満たせるだろうと思った
私が愚かでした。
今回の件は輝夜さんのお気が済むように
なさっていただければと思います。」
陽叶の祖父は
後悔に満ちた顔をしていた。
そして、陽叶の母が
震える声で話し始めた。
母「陽叶はやっと授かった子供で…
不妊で悩んでた時に先生と出会って、
それで産まれてきてくれて…本気で
あの人のおかげだと思っていました。
だから願いを叶えなければ死ぬと、
その言葉を信じてしまって…
必死でした。絶対死なせたくないと。
あなたから父親の話を聞かなければ
一生陽叶の気付けなかったわ。
本当にごめんなさい。」
日野「マインドコントロールというのは
恐ろしいもので、そう簡単には本来の
状態には戻れないようです。まだまだ
時間がかかるかと思いますが、私共が
奥様を支えてまいります。
それと占い師の事ですが、近日中に
警察へ被害届を出す予定です。」
祖父「今後娘には陽叶に一切の関わりを
持たせません。輝夜さんから何か、
ご希望があればお聞かせ願いますか。」
輝夜「いえ、今回の件に関してはこれ以上
大事にするつもりはありません。
ただ1つ、お母さん。
私とどうか約束をしていただきたい。
どれだけ時間がかかっても、雷架とは
もう関わらないで下さい。たとえあの女が
悪くても、あなたが被害者でも、それが
陽叶を思うが故のものだったとしても
彼の人生を壊したことには変わりはない。
これ以上陽叶を傷付けない、それが
母親として出来る唯一のすべだと思うので。」
輝夜の言葉を聞き、
陽叶の母は泣き崩れた。
その泣き声は、
静かで落ち着いた店内で
響き渡っていた。
週刊誌が発売された1月8日。
日付が変わった頃から
ネットには記事の詳細が流れ、
朝からニュースでは
輝夜の話題で持ち切りだった。
ある番組では専門家が出演し、
マインドコントロールについて語り、
洗脳から解けることの難しさを
解説していた。
発売された記事は以下である。
______________________________
【国民的アイドルがストーカー被害?!
彼を追う女の正体は詐欺占い師だった】
12月31日。
あと数時間で新年を迎えるという夜に、
人気アイドルグループ・fascinate eyes
(ファシネイトアイズ)のメンバー・輝夜が
住むマンション付近のコンビニ前には、
怪しげな二人が待ち構えていた…。
輝夜は家に向かうも、その二人の異様な
雰囲気に足を止め、恐る恐る声をかけた。
輝夜と話している女性は、輝夜の知人の
親族で、その脇にいる占い師・雷架に
よって洗脳されている。
女性は輝夜に自分の願いを叶えるよう、
執拗に迫るが、輝夜は洗脳から目を
覚まさせようと必死に説得した。
輝夜の言葉が響いたのか、女性は
パニック状態に。それを見た占い師は
洗脳が解けるのを恐れ、意味不明な
呪文を大声で叫び続けた。
この占い師・雷架は不妊で悩んでいる
女性をターゲットにしているようで、
産婦人科の前で隠れ、それらしい人に
声をかけては金を騙し取っていた。
写真の女性もその被害者の一人である。
また、過去に雷架に騙されたという
被害者から話を聞くことが出来た。
被害者「20年以上前ですが、不妊で
悩んでいて、病院を出ると雷架が
笑顔で声をかけてきました。
私は神の使いで、言う通りにすれば
必ず授かると。数珠やネックレスを
買わされ…50万くらい払いました。
結局授かれず、諦めた頃に偶然店で
あの人から買った数珠を見つけて…
1,000円でした。すぐに電話をしたら
切られてかけ直したら着信拒否に。
騙された私も悪いですが…あの時は
本当に子供が欲しくて必死でしたから。
今からでも訴えてやりたいです。」
人の不幸を逆手に取る。
そんな詐欺占い師が20年以上も
不妊に悩む女性を騙し続けているのだ。
その後、雷架と女性は到着した警察官に
連れられ、署で事情聴取を受けることに。
一人になった輝夜に話を聞いてみると、
輝夜「まさか家まで知られてるとは…。
びっくりしました。正直怖かったです。
知人が雷架に長年苦しめられていて…
お母様に何とか僕の声が届いてくれたら。
雷架から被害に遭った方がいましたら
何年経っていても遅いとは思わずに
是非声を上げてほしいと思います。
子供を授かりたいという尊い願いを
踏み躙るなど、絶対に許せません。
被害に遭った皆さんも、知人も
救われて欲しいと願っています。」
『神の使い』と謳い、不妊に悩む
女性達を騙し続けた雷架。
その詐欺占い師のこれから進む道は
神などいない、『地獄』だろう。
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記事を読んだ輝夜は、
記者の森へすぐにお礼の電話をした。
森によると、今日の記事を知った
雷架の被害者達から電話があり、
被害の情報が後を絶たないようだ。
恐らく集団訴訟になるとのこと。
また、陽叶の母が被害届を出すと
伝えると、逮捕されるのは確実だろうと
大体の逮捕までの流れを教えてくれた。
輝夜は電話を切り、SNSで今回の
記事について手短に投稿した。
当初の約束通り、森さんに
助けてもらったと付け加えて。
これで雷架の占い師人生は終わりだ。
陽叶は復讐に生きなくていい、
やっと解放されるのだ。
輝夜は陽叶へ
「今日の20時に、あの森に来てほしい。
話したいことがある。」
と、メッセージを送信した。
輝夜が森さんと電話をしている頃、
出かけていた日野さんが
記事が載っている週刊誌を買って
陽叶の部屋へ帰ってきた。
日野「陽ちゃん、これ。一緒に見て。」
陽叶「どうしたの?週刊誌なんて買って。
パマさんらしくないじゃん。
……え…どういうこと?何これ……」
日野「輝夜さん、あなたのために沢山
動いてくれたのよ。全部読んでね。」
陽叶「母さん…家の前で待ってたの…?
もう輝夜さんに会えないよ、こんなに
迷惑かけて合わせる顔がない…」
日野「奥様ね、陽ちゃんがお父さんの為を
思ってわざと家を出るようにしたことを
輝夜さんから聞いて、様子が変わったの。
他にも色々目を覚ますような言葉を
投げかけてくれたみたいでね…奥様は
私が雷架を信じたから陽叶に辛い思いを
させたんだって、毎日泣いていてね。
まだすぐには洗脳から解けないけど、
お爺様は今後あなたには関わらせないと
言ってる。お爺様も陽叶には本当に
申し訳なかったって後悔しているわ。
警察には詐欺の被害届を提出したの。
あの女は時期に逮捕される。
陽ちゃん、もういいのよ。
あなたが苦しんでたこと、全部終わるの。」
陽叶は驚きと安堵で、
膝から崩れ落ちた。
日野「陽ちゃん!大丈夫!?」
日野さんからの問いに
陽叶は泣きながら答えた。
陽叶「俺、輝夜さんに何て言ったら…」
日野「あなたが自分を救ってくれたって。
だから陽叶を救いたいって言ってたわ。
輝夜さんも陽ちゃんも、互いが相手を
救いたいと思える程大きな存在なのね。
言うべきことは、もうあなたの中で
わかっているんじゃない?」
陽叶「パマさん俺、輝夜さんのことが…」
何か言いかけたその時、
陽叶の携帯が鳴った。
輝夜からメッセージが来た。
『今日の20時に、あの森に来てほしい。
話したいことがある。』
陽叶はすぐに
「俺も話したいことがあります。
会いに行きます。」
と、返した。
日野さんは優しい顔で陽叶を
見つめていた。
その顔は、息子の成長を喜ぶ
母のようだった。




