光風霽月
ついに週刊誌が発売されたその日
新聞は輝夜のニュースで一面を飾っていて、
TVを回せばどの局もトップニュースで報道。
ネットではあらゆる可能性の憶測と
考察が飛び交う。
問題の週刊誌を開くと、
記事にはこう書かれていた。
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【国民的アイドルの裏の顔!母親の正体は
元アイドルのあの人だった】
人気アイドルグループ・fascinate eyes
(ファシネイトアイズ)のメンバー・輝夜が
女性と揉めている様子をキャッチした。
2人は激しく口論しており、女性が掴んだ腕を
輝夜は勢いよく振りほどき、衝撃で転倒した
女性には目もくれず立ち去った。
本誌はこの女性に取材を試みると、彼女は
輝夜の母親で、元アイドルの雲蘭
44歳だった。
雲蘭によれば、この日は連絡のつかない輝夜が
気がかりで一目顔を見ようと待っていたという。
そんな健気な母心は彼に届かず、冒頭の始末だ。
更に驚くのは、雲蘭から出たこの返答だった。
『輝夜は小さい時から思い通りにいかないと
私に暴力を振ったり暴言を投げかける子でした。
成長と共にその力は強くなり、いつか殺されて
しまうのではないかと怖かったです。
怒りの矛先が他者に向けられた時は
世間に顔向けが出来ない。
私が犠牲になってでも彼が真っ当に
生きていけるように、今後も連絡を取り合って
いたいのです。それが母親ですから。』
普段カメラの前で見せる表情からは
考えられない彼の本性。
母の思いを知り、彼を支えるファンは
胸を痛めるだろう。
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母親の虚言によってデタラメが書かれていた。
会見を開くにあたり、輝夜の境遇を知った
マネージャーや事務所の職員は
何て女だと呆れている。
輝夜は震える左手をぎゅっと掴み、
テーブルの下に隠した。
母はそこまでして俺から…
死ぬまで集り続ける気なのだと
恐ろしい程の執念に唇を震わせた。
事務所の外にはマスコミが張っていて
家には帰れず、
その日は事務所へ泊まった。
明日の会見に向けて皆で話し合っていたことも
あるが、輝夜は頭の中がいっぱいいっぱいで、
陽叶からの連絡を確認するほど
心の余裕がなかった。
翌日、輝夜は14時からの会見に向けて
1時間前には会場入りした。
ぼーっと控室の壁を眺めていた時
コンコン、と部屋をノックする音が響いた。
輝夜が「はい」と答えると
開かれたドアの先から陽叶が。
そして後ろから輝夜の父が現れた。
輝夜「陽叶…どうして父さんと一緒に?」
陽叶「へへ。あんな記事見たら居ても立っても
居られなくてさ。でも、あれを嘘だって
証明するには輝夜さんだけでは難しいから」
輝夜「でもどうやって…父さんは海外にいるのに」
陽叶「俺、おかげさまでマネージャーさんに
専属カウンセラーとしてお墨付きをいただいている
もんで。マネージャーさんにツテを当たってもらってお父さんに取り次いでもらったんだ」
父「陽叶くんから連絡をもらってすぐに日本に
来たよ。いやー間に合ってよかった。息子一人に
こんな思いさせられないよ。一緒に会見に出て
私からも話をする」
輝夜「父さん…でも父さんには新しい
家族がいるし…」
父「輝夜。お前は私の大事な一人息子だ。
再婚する時、妻に話したんだ。離婚して寂しい
思いをさせた自分には新たに子供を設ける資格が
ないって。妻も再婚を快く祝ってくれた輝夜に
感謝しているし、自分の子供のように気にかけて
いるよ。今日の事だって、一つ返事で
行って来いってさ」
輝夜「そんなこと…父さんのおかげで寂しく
なかったよ。純粋に再婚するのは嬉しかったし、
子供だって…俺のためにそこまでしなくても
いいのに」
父は輝夜をそっと抱きしめて頭を撫でながら話す。
父「アイドルになった経緯も陽叶くんに聞いた。
ごめんな。頻繁に連絡してたのに気付かなかった
なんて…父親失格だ。もう無理しなくていい。
辞めたっていいんだ。我が儘に、好きに
生きていいんだ。今日までよく頑張ったな」
親子の会話を聞いて、陽叶は微笑みながらも
目を潤ませていた。
父「さ!時間がないぞー!会見までお互い話す
内容のすり合わせをしよう。相違や伝え漏れが
あったらいけないからな」
三人は控室の椅子に座り、会見が始まるギリギリまで
話し合い、会場へ向かった。
定刻の14時になり、
事務所の専属弁護士、輝夜、父の順で
会見場に入った。
正面を向くと、目を開けられないほど沢山の
フラッシュを向けられ、一瞬眩暈がした。
何も話していない以上、自分は世間に
とんでもない人間だと思われているのだろう。
信じてもらえるのか
不安からか、鼓動が早く、
音が強く鳴り響いているように感じる。
輝夜は掌の汗をハンカチをぎゅっと握って抑え、
舞台袖を見た。
そこには関係者のカードを首からぶら下げた
陽叶がいる。
陽叶は頷きながら両手を曲げ、
頑張れのポーズをして微笑んだ。
陽叶の笑顔を見て冷静になった輝夜は頷き返し、
凛々しい表情で前を向き、一礼した。
輝夜
「本日はお忙しいなかお集まりいただき
ありがとうございます。この度の報道により、
応援して下さっているファンの皆様、
関係者の皆様にご心配とご迷惑を
おかけしていますことを謹んで
お詫び申し上げます。
記事にある通り、写真の女性は
私の母である雲蘭です。しかしながら、
その事を除いては記事の内容は全て事実無根で
あることを皆様にご説明させていただきたいと
思います。
また、右におりますのは私の父です。
父が話す時間も設けますことを
ご理解くださいますよう、
よろしくお願いいたします。」
集まった記者たちは、謎の男性の正体が
父であることに驚き、ざわめいている。
そして、シャッター音がしきりに鳴り響く。
父
「本日は息子の輝夜のためにお集まりいただき
ありがとうございます。父の葉月昇と申します。
輝夜の母親である雲蘭さんとは私が
衣装制作会社の社長を務めている際に
知り合い、結婚しました。
世間には結婚の事実を公表していなかったこともあり、1年後出産する時に彼女は芸能活動を
休止してました。そして輝夜を産んだ半年後に
仕事復帰しました。
出産してから彼女は一度も育児をしたことは
ありません。輝夜の祖母が母親代わりでした。
そして彼女の不貞行為がニュースになり、
離婚に至りました。
中学二年の春までは私も時間を作って
会いに行っていましたが、再婚し、
仕事の都合で海外へ移住することになり、
その後は連絡を取り合うだけになって
おりました。
すぐにおばあ様が入院されたそうで、
私が再婚したから輝夜が気遣って
話せなかったのだと…私は父親失格です。
私の再婚と移住、おばあ様の入院が
きっかけとなり、輝夜は雲蘭が勝手に敷いた
レールの上で生きることになってしまいました。
これから輝夜は話すことが事実であり、
報道の内容は全て作られた話です。
どうか皆様、真実を正確にお伝えください。」
既婚者であったのを隠していたことなど、
父の発言は驚く内容が多く、
会見場は終始どよめきの声が上がっていた。
父がマイクを置き、こちらを見て頷いた。
輝夜は軽く深呼吸をして話し始める。
輝夜「父の話にもありましたが、幼少期から
ずっと祖母と父が私の面倒を見てくれて
いました。父は忙しいなかでも時間を割いて
会いに来てくれていたし、不満や寂しいと
感じることもなく、大切にされていたなと
今でも思います。
父が再婚する時は心から嬉しく思いましたし、
父親失格だなんて言っていますが、こまめに
連絡をくれて、仕送りも私がもう大丈夫だよと
言うまで毎月途切れる事なく送ってくれました。
私にとっては自慢の父です。
ここまで成長を見守ってくれて
感謝の気持ちでいっぱいです。」
この言葉を聞き、隣で父は泣いている。
輝夜「父が移住してすぐに祖母の持病が
悪化し、入院しました。父の新しい人生を
邪魔したくないと思い、話しませんでした。
祖母が入院してすぐ、普段は明け方に泥酔状態で帰宅する母が夕方に家にいて、手元には
仕送り用の通帳がありました。
私の部屋に隠してたのですが、今思えば祖母が
家にいる間は母が通帳を見つけないよう
見張ってくれていたのだと思います。
進学のために貯めていたのですが、取り上げて
見た通帳の残高は0円になっていました。
母はお金を全て使い、勝手に私の事を応募して
契約を決め、祖母の入院費用を脅しに使い、
私に芸能界へ入って自分の夢だった
東京ドームに立つ夢を果たせと言いました。
大人になって考えると逃げる術があったのではと思いますが、学校の進路相談では当時の担任から家庭を考え進学はせず芸能界に行く道を
強く勧められていましたし、当時の私には
進学用のお金がなくなったこと、いつまで続くかわからない祖母の入院費を盾に使われては
成す術がありませんでした。」
記者たちは予想外の内容に
時折メモを取りながら真剣に聞き入っている。
輝夜「覚悟を決める前に祖母へ会いに行くと、
看護師さんから祖母が褒めてくれていることを
知りました。テレビに出られるくらい
かっこいい孫なのだとよく話したそうです。
ただ自分の娘のせいで苦労しているから、
普通の幸せを掴んでほしいと…この話を聞いて、病室のテレビから祖母が望む自分の姿を
見せられたら…そう思い上京を決めました。
上京して1年くらいで祖母の体調回復し、
それ以降は介護施設でお世話になっています。
収入はつい最近まで母親に給料が入る頃に
待ち伏せされては毎月7割程のお金を取られて
いましたが、母との関係を断とうと決意し、
祖母にかかる全ての費用は私が直接施設に
払うからもうお金は渡さないと母に伝え、
連絡を絶っていました。
今回撮られた写真は、連絡が取れないため
母が私を待ち伏せしてお金を払い続けるように
せがんで腕を掴んでいる時のものです。
誰が産んでやったと思っているんだ、など
罵声を浴びせられて心底うんざりしました。
死ぬまでお金を取り続けるつもりなのだと
よくわかり、腕を振り払いその場を
後にしました。
まさかその後全くのデタラメを吹き込んで
このような状況になるとは
思いもよりませんでした。ガッカリです。
以上が報道の記事への反論となります。
私はもうあなたの思い通りにはなりません。」
最後の言葉は、カメラ目線で言い放った。
どこかで見ているであろう、母に向かって。
弁護士からは、
「極めて悪質な事案であり名誉棄損である。
社会的影響力を考えると断じて許されない。
法的措置を取り、戦う」
「以前から精神面での不調があり、輝夜から
活動休止の相談を受けて調整していたが、
輝夜の精神的負担を考え、本日の会見を持って
12月いっぱいまでの半年間は活動休止に入る」
という説明があった。
一通りの話を終え、質疑応答に応じた。
記者から
「中学時代の輝夜さんの心情を考えると、
今回縁を切るという決断は思い切ったもの
だったと思いますが、何か輝夜さんを
強くしたきっかけがあったのでしょうか」
という質問が上がった。
輝夜「そうですね…本当につい最近までは
アイドルを演じていたというか…
そこに感情はなくて、ただただ目の前の
仕事をこなす、食事を取る、寝るという感じで。何の欲もなく生きていました。
ですが少し前に私を見て、
望んでこの仕事をやっていないのではと
言う人に出会いました。
誰にも過去を話したことがなかったので
驚いたと同時に、やっと見つけてくれたという
不思議な気持ちになって…
そう言われて、心が軽くなったんです。
今では彼が親身になって話を聞いてくれる
おかげで自分の心身の不調に気付けたり、
今回のような母に対する決断もつけられるように
なりました。彼が支えになり、10年経って
やっと自分を取り戻せたのだと思います。」
記者「その方はお医者さんですか?
カウンセラーとか…?」
輝夜「いえ、違います。でも、それに近い道を
学んでいらっしゃいます。私としては
専属カウンセラーでいて欲しいという思いです。
そして、今日をもって12月いっぱいまで
活動休止に入らせていただくことに
なりましたが、彼のために、祖母のために、
そして応援して下さる全ての方のために、
来年1月の活動再開は東京ドームで行われる
ライブでする予定となりました。
母の夢を果たすためではありません。
私の人生を荒らしておいて
願いを果たせたと思わないで下さい。
私はあなたが出来なかったことを
成し遂げてみせます。」
陽叶は舞台袖で声を殺して泣いていた。
一緒に会見を見守っていた輝夜のグループの
メンバーは、それぞれが陽叶の頭を撫でたり、
水を差しだしたり、ハンカチで涙を拭いたり
して、笑顔で慰めている。
会見場からはけてきた輝夜は
そんな微笑ましい様子を見つけ、
優しく微笑みながら皆へ駆け寄った。
その日の夜からしばらくは輝夜の会見の報道で
どの報道機関も持ち切りだった。
同時に、母親の雲蘭への批判が凄まじく、
マスコミは彼女の素行を調査しては
記事にして、瞬く間に拡散された。
次々と露わになる雲蘭の本性に、
世間からは完全に
「日本一最低な母親」という認識になった。
雲蘭はスマホに登録されている男達に
手当り次第電話をかけて助けを求めたが、
出たと思えば暴言を吐かれるか
留守番電話の音声が流れる。
着信拒否されている人もちらほら。
結局男にすら見放されて
雲蘭はマスコミが張っていない夜更けに
荷物を抱えて出かけた日を最後に、
行方を眩ませた。
輝夜が休養に入り、4ヶ月が経った。
信じられないほど長い時間寝たり、
今までやって来なかった料理をやってみたり。
まるで人生を取り戻すかのように
思いついた物全てに手を出した。
週に一度は陽叶と会い、
食事や買い物を共にした。
器用な輝夜は料理が向いていたようで、
陽叶を自宅に招いて振舞うこともあった。
その腕前はなかなかの物で、
陽叶の喜ぶ顔を見て嬉しくなり、
どんどん腕をあげて行った。
祖母への面会にも同行してもらった。
あの日の会見を祖母もテレビの前で
見守っていたそうで、輝夜を見る度
涙を見せて手を差し伸べた。
輝夜は優しい笑顔で手を握り
座っている祖母の視線に合わせて屈んだ。
輝夜「ばあちゃん泣かないで。
ケーキを買ってきたから一緒に食べよう。」
ケーキの箱を開けて、取り出している輝夜の
後ろから陽叶がひょこっと顔を出し、
祖母へ挨拶した。
陽叶「初めまして。一緒にお邪魔しちゃって
すみません。輝夜さんには日頃からお世話に
なってます。」
祖母はにっこり笑って
「輝夜を支えてくれてありがとう」と言った。
ケーキを食べながらいろんな話をして、
時々介護士達に求められたファンサービスに
応じたりしながらも、
とても穏やかな時間を過ごした。
その日の帰り道のことである。
夕食を外で済まし、夜風を浴びながら
人気のない道を二人で歩いていると、
後ろから
「陽ちゃん!」と女の声がした。
その声を聞いた陽叶の表情は
今まで見たことがない顔をしていた。
振り向くと笑顔でこちらを見つめる女性と
その脇には派手な格好をした魔女のような
女が立っていた。
陽叶「母さん…なんでいるの?また探したの?」
輝夜「お母さん…?こんばんは、初めまして。
いつも陽叶くんにはお世話になってます。」
陽叶「輝夜さん挨拶とかいいから…行こ」
輝夜「え?どうしたんだよ、陽叶らしくない」
母「ふふ。こんばんは。素敵な方ね。
陽ちゃん…今、この人が『欲しい』のね?」
陽叶「違う…違う!やめろ!やめてくれ!」
陽叶は頭を抱えてしゃがみこんだ。
輝夜「おい、どうしたんだよ陽叶!大丈夫か?」
母「目を見ればわかるわ。まさか相手が男とは
驚いたけど。陽叶、今までで1番手に入れたい
って顔してるわ」
陽叶「欲しくない!俺はこの人を欲しくない!
俺が欲しいのは…あんたがいない世界。
頼むよ、俺の前から消えて『欲しい』んだ」
そういうと、陽叶は無我夢中で
走り去って行った。
輝夜が追いかけようとすると
母「先生…陽ちゃんの願いを叶えないと」
陽叶の母は、まるで絶対に叶えなければ
死んでしまうような慌て具合だ。
先生「そうよ、あなたはあの子の願いを
全て叶えないといけない運命なのだから」
そんな二人の掛け合いが異様で
初対面ながら、
【関わってはいけない】
そんな気配を感じ取った。
その後輝夜は走りながら陽叶へ
何度も電話をかけたが出なかった。
この出来事以降、
陽叶と音信不通になってしまった。




