第49話 〈焼滅の女帝〉とご対面
声をかけてきた二人の男が、俺の前後に立ち、逃げられないよう挟み込む形で〈炎帝軍団〉の拠点へと案内した。
周囲のハンターたちの視線を浴びながら、高層ビルの廊下を進む。
最上階の重厚な大扉の前で、案内役の男が足を止めた。
コンコンコン。
「火蓮様。松原唯人さんをお連れしました」
「入れ」
主の許可を得て、男が扉を開く。
応接用の高価なソファには、足を組んだまま悠然と座る女性がいた。
その左右には、高ランクのハンターたちが控えている。
女性の前まで進むと、案内役の二人も他のハンターたちと並んで脇に立った。
「座れ」
ひどく尊大な物言いだが、言われた通りソファに腰を下ろす。
目の前の女性は二十代半ばほどだろうか。気の強そうな眼差しに、真っ赤なチャイナドレス風の衣服をまとっている。
胸元から覗く深い谷間と、スリットからのぞく素脚は、目の保養と言えばそれまでだが――高校を卒業したばかりの男子には、少々刺激が過ぎた。
それでも、話は冷静に聞かなければならない。
「初めまして。俺は松原唯人、Bランクハンターです」
「Bランク? あぁ、スタンピードの件で昇級したのか。私は三浦火蓮――〈焼滅の女帝〉と呼ばれるSランクハンターだ」
「それで、ご用件は?」
「回りくどいことは好かない。単刀直入に言おう。私のクランに入れ」
予想通りの内容だ。しかし、なぜここまで上から目線なのか。せっかくの美人が台無しだった。
「光栄ですが、お断りします。クランに所属するメリットがないので」
「貴様! 火蓮様のお誘いを断るとは、傲慢にも程があるぞ!」
一人のハンターが激昂し、他の者たちも険しい視線を向けてくる。
命令一つでいつでも動けるよう、武器に手をかけている者もいた。
「落ち着け!」
女性が一喝し、場が静まる。
「メリットが無いか……クランに所属すれば、Sランクハンターの後ろ盾が得られる。報酬は分配になるが、素材の獲得量は増え、結果として一人当たりの取り分も増える。メリットしかないと思うが?」
「本日、俺はAランクダンジョンを単独で攻略しました。真偽はハンターギルドに確認していただいて構いません」
「……」
「それだけの実力があれば、後ろ盾は必要ありません。報酬や獲得量が増えても、強くなるために最も重要な経験値が等分されてしまう」
「……」
「金にも困っていない。俺にメリットはありません」
〈焼滅の女帝〉は黙ったまま、じっと俺を見つめていた。やがて足を組み替え、わずかな沈黙の後に口を開く。
「……確かに、お前にとってメリットが薄いことは理解した。だが、クランに勧誘する本当の理由は別にある」
「本当の理由?」
「Aランクダンジョンの話が本当なら、お前は近いうちにSランクハンターになれるだろう。無所属のままでいれば、水面下から接触してくる者が現れる」
「誰がですか?」
「外国のギルド関係者だ。Sランクハンターが無所属と知れば、条件次第で自国へ引き込めると考える連中がいる」
外国からの誘致か。どこの国も、ハンターを貴重な軍事力として見ているからな。
だが、俺が日本を離れることはない。
守るべき家族がいる。それに、俺はこの国が好きだ。
「外国に行くことはありません。話はそれだけですか?」
「……そうか。わざわざ時間を取らせてしまったな。話は以上だ」
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