第36話 スタンピードの終息
大きく硬質な剣山に貫かれたトロールの死体が、視界を埋め尽くす。周囲を見渡しても、トロール・キングの頭部しか見えない。
数多くの死体から流れ出た血の池から、跳躍して抜け出す。前方には、こちらを睨め据えるトロール・キング。
その巨体は敵対する者を威圧し、戦意を容易に挫く。個体戦力はBランクでも上位で、高い耐性と再生力が合わさり、Aランクハンターさえ苦戦する魔物。
ゆっくりと距離を詰めて行き、腰を落として油断なく短剣を構える。僅かな静寂の後━━━
「グァアアアアア!」
トロール・キングが大きく口を開き、大気が震え耳を劈くほどの【咆哮】が、周囲に轟く。
Bランク未満のハンターは瞬く間に意識を刈り取られ、Bランクハンターでも身体が硬直し、隙だらけになってしまうだろう。
俺が動けないと勘違いしたのか、でっぷりと張り出たお腹を揺らし、勢いよく駆け出す。そのせいで、大きな地震のように地面が揺れる。
目前まで迫り、その剛腕を振り下ろす。蜘蛛の巣状に亀裂が走り、周囲の建物が倒壊し始める。
【隠密】で姿を消し、背後に回っていた俺は、その場で深く屈んで跳躍し、丸太のような太い首に深々と短剣を突き刺す。
先程の【咆哮】とは違い、激痛に襲われた時のように絶叫し、後ろ首を押さえるトロール・キング。
しかし、トロールよりも抵抗力が高いためか、まだ猛毒で苦しむような様子は見られない。
「だったら、何度でも突き刺してやる!」
トロール・キングの足元を素早く駆け回り、身体の至る所に短剣を突き刺していく。
トロール・キングは俺の速度についてこれず、的外れな場所ばかりに拳を振り下ろし、徐々に猛毒に侵されていく。
数分後、天を仰ぐトロール・キングはとうとう膝から崩れ落ち、その巨体は地面に沈んだ。
『魔力が11UPしました』
『筋力が13UPしました』
『頑丈が19UPしました』
『敏捷が12UPしました』
『知力が11UPしました』
『精神が17UPしました』
『器用が11UPしました』
『幸運が14UPしました』
『【咆哮】Lv.5にUPしました』
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突如としてスタンピードが発生し、外に出てきた魔物の討伐や住民の避難誘導をしていたハンター達は、先程まで絶望の淵に立たされていた。
物理攻撃と魔法攻撃に耐性があり、生半可な攻撃が通じないどころか、苦労してダメージを与えても、すぐに再生する魔物を相手にしていたからだ。
しかも、そんな魔物が群れを成して街を蹂躙したことで、住民にもハンターにも多くの死傷者が出ていた。
何度も目の前で仲間が喰われ、命懸けで戦っていたハンター達の心も、徐々に擦り減っていった。
ハンター達の心が完全に折れようとした時、一匹のトロールが喉を掻きむしるように苦しみ始めたかと思うと、膝から崩れ落ち微動だにしなくなった。
一体何が起こったのか、ハンター達は理解できなかったが、続いて激しい地鳴りと共に大きな剣山が、トロール達の身体を貫いていた。
そして、上空に大量の火球が生成されると、トロール達に勢いよく降り注ぐ。連続した大規模な攻撃が止まった後、トロール達は絶命していた。
これだけ人の目がある中では、〈隠者のローブ〉もあまり役には立たず、幾人かのハンターが、トロール達の間を飛び回る人物を目撃していた。
しかし、まだ群れを率いていたトロール・キングが残っている。
真っ黒なローブを身に纏う人物がトロール・キングの方へ飛んで行った後、何度も激しく地面が揺れたが、時間的に数分。
向こう側からやってきた人物を見て、数人のハンターが天に拳を掲げ、心の底から叫んだ。




