第32話 スタンピード
ダンジョン攻略を終えて、時刻は昼前。キリもいいし、早めに昼食を摂ろうかなぁと考えていた時、街中に警報が鳴り響いた。
『緊急避難警報! 緊急避難警報! スタンピードが発生しました! 直ちに近くのシェルターに避難してください! これは訓練ではありません! 直ちに近くのシェルターに避難してください!』
けたたましい警報音が鳴り響き、スタンピードが発生したことを伝える、アナウンスが響き渡る。
「スタンピードだと!?」
スタンピード━━━ダンジョン内の魔物が飽和することによって、外に魔物が侵攻してくる現象。
普通は、ハンター達のおかげで滅多にスタンピードが発生することはない。しかし、ダンジョン内の環境や魔物の特性によっては、どうしても不人気な場所が出てくる。
先程のアナウンスが聞こえたということは、既に魔物の侵攻が始まっているはずだ。
携帯の通知を確認すると、スタンピードが発生した場所が分かった。そして、侵攻している魔物の情報を見て、俺はすぐに現場に駆け出した。
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スタンピードが発生した場所の付近は、酷い有様だった。ギルドの職員が常駐する建物は破壊され、周囲には血痕が飛び散っている。
そして、魔物を足止めしようとしたハンターや、逃げ遅れたギルド職員の死体も散乱している。
しかも、頭部や四肢が欠損しており、死体の損傷が激しかった。
現在、街中で暴れている魔物は、オークやオーガと同等の巨体、でっぷりと張り出た腹、醜悪な見た目のトロールだった。
Bランクに分類されるダンジョンの中でも、上位のダンジョンに出現する魔物であり、物理攻撃や魔法攻撃に耐性があるのは勿論のこと、高い再生力がある。
泣き叫び、必死に逃げ惑う一般市民を、その剛腕で掴み、握り潰したり、大きな口に放り込んでいく。
偶然その場に居合わせたハンターや、駆けつけたハンターが対応に当たっているが、被害を抑えられていない。
ハンターギルドは当然、事態を解決できるクランに連絡を取ってはいるが、ダンジョン内に居たりして、後手に回っていた。
同じく逃げ惑う人達の悲鳴や建物が倒壊する轟音が響く中、母親が娘の手を引き、必死に逃げていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
しかし頑張って母親に合わせていた足がもつれ、激しく転倒し、繋いでいた手が離れてしまう。
娘は恐怖や疲労、激しい痛みでその場から動けず、泣きながら母親を呼ぶ。母親は迫り来る凶悪な魔物に見向きもせず、娘に駆け寄り覆い被さる。
(お願い! 誰か助けて!)
母親が神にも縋る思いで祈り、トロールがだらしなく涎を垂らしながら、母親に手を伸ばそうとした時━━━
「オラァ!」
一人の青年が駆けつけ、トロールの手首を斬り落とした。




