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キタキツネのクウ

作者: 竹内 昴
掲載日:2025/10/16

夜がくると、ぼくらの村は光りだす。


木々のあいだから、たいこの音がポンポコ鳴って、


狐たちはいっせいに笑い出す。


年にいちどの夜祭り。


ぼくのいちばん好きな夜だ。




たいこをのせた山車をひいて、


「わっしょい、わっしょい」と声をあげる。


綿あめのにおい、りんご飴の赤い光、


あたりがほのかに甘く染まる。




そのときだった。


ふと、見知らぬ影がひとつ。




ひとりの子ども――人間の子。




ぼくの尻尾がぴんと立った。


「まさか……」


まわりの狐たちは、人間の姿に変わっている。


でも、あの子はどう見ても“ほんものの人間”だった。




怖くなったけど、なぜか放っておけなかった。


近づいて、声をかけた。


「こんにちは。ぼく、クウってんだ。君は?」




子どもは泣きそうな顔で言った。


「ぼく、小吉……。お父さんとお母さんと来たけど、道に迷っちゃったの」




ぼくは思わず言った。


「じゃあ、ぼくが探すの手伝ってあげる」




涙のかわりに、小吉は笑った。


その笑顔が、まるで月のひかりみたいにやさしかった。




「ねえ、今日はなんのお祭りなの?」


「収穫祭さ! ほら、見て!」


ぼくは宙返りして、くるりとひとまわり。




小吉は手をたたいて笑った。


その笑い声が、山の木々をゆらした。




2人で、綿あめを食べて、たいこをたたいた。


ぼくは生まれてはじめて、人間と笑いあった。




やがて小吉が言った。


「おなかがいっぱいだよ」


「よかった。あの道を抜ければ君の村に帰れるよ」




――そのときだった。




「ねえクウ、その……おしりから生えてるの、なに?」


小吉が首をかしげた。




しまった。


ぼくの尻尾。




その瞬間、祭りの明かりがすっと消えた。


提灯の火が消え、太鼓の音が遠くなった。


気づいたら、ぼくの体は風の中に溶けていた。




小吉の手には、ぼくが残したどんぐりの実。


まだ少し、ぬくもりがあったはずだ。




遠くで声がする。


「おーい、小吉やー」「どこだー、小吉!」




小吉の声が震えながら返った。


「おっとうー、おっかー! ぼくここだよー!」




……よかった。


見つかった。

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