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第3章

 翌朝。俺は、異世界のやたらと豪華なベッドの上で目を覚ました。

 俺のワンルームのアパートの家賃じゃ、このベッドのシーツ一枚すら買えそうにない。


 窓から差し込む朝日が、部屋の隅々までを照らし出している。

 空気はひんやりと澄んでいて、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 実に清々しい朝だ。

 異世界に来てしまったという現実を除けば。


 身支度を終えた俺は、老魔道士に言われた通り、城門へと向かうことにした。


「王国最優秀の、若き女騎士、ねえ……」


 廊下を歩きながら、自然と口から独り言が漏れる。

 どんな人が来るんだろうか。

 筋骨隆々の女傑か、あるいは百戦錬磨のベテランか。

 どっちにしろ、俺みたいな一般市民が護衛されるって構図が、どうにもしっくりこない。


 城の中は、朝の活気で満ちていた。

 鎧を着た兵士たちが行き交い、メイドさんたちが忙しそうに廊下を拭いている。

 彼らは俺の姿をちらりと見ると、ひそひそと何かを噂している。

 

 まあ、そうだろうな。昨日いきなり召喚された、謎の男だもんな。


 やがて、巨大な城門が見えてきた。

 朝日が門の向こうから差し込み、まぶしくて目を細める。


 そして、そこに、彼女はいた。


 逆光の中に、一人だけぽつんと佇む人影。

 ゆっくりと目が慣れてくると、その姿がはっきりと見えてくる。


 絹のように滑らかな、銀色の髪。

 陽の光を反射して、キラキラと輝いている。

 透き通るように白い肌に、大きな碧眼。

 まるで精巧な人形のように整った顔立ち。

 身体のラインに沿って作られたであろう白銀の鎧は、美しさと実用性を兼ね備えているように見えた。


 腰に下げた剣の柄を、彼女は所在なさげに握っている。


 これが、女騎士……? 想像していたどのタイプとも違う。

 というか、レベルが違いすぎる。

 そこらのアイドルや女優が裸足で逃げ出すレベルの、超絶美少女じゃないか。


 俺は少し緊張しながらも、彼女の方へと歩みを進めた。

 俺の足音に気づいたのか、彼女はゆっくりと顔を上げる。

 その碧い瞳が、まっすぐに俺を捉えた。


「あの……」


 俺が声をかけるより先に、彼女の小さな唇が開いた。


「あなたが、勇者……?」


 その声は、鈴の音のように可憐だったが、どこか力がなく、そして明らかな懐疑の色が滲んでいた。

 まあ、そう思うよな。

 コンビニの棚に突っ込んで気絶した男が、勇者だなんて誰も信じないだろう。


「一応、そうらしいです。佐々木淳です。どうも」

「私は、フィリア・ホワイトシャイン。……王女様の護衛を務めていますが、今回は王の勅命により、あなたの護衛を」


 フィリア、と名乗った彼女は、そう言うと伏し目がちに言葉を濁す。

 彼女の口調には、まったく自信が感じられない。

 その儚げな雰囲気が、彼女の美しさを一層際立たせている。


 ホワイトシャイン……歯磨き粉みたいな名前だな、なんて場違いなことを考えていると、彼女はぽつりと呟いた。


「私なんかは、どうせ……いざという時、役に立たない……」


 その声は、今にも消えてしまいそうなくらいか弱かった。

 なんだこの子。自己肯定感が地の底まで落ち込んでいるぞ。

 王国最優秀の騎士だって話じゃなかったのか。


「そんなことないと思いますよ。すごく強そうに見えますけど」


 俺は思ったことをそのまま口にした。

 彼女が纏う雰囲気は、間違いなく手練れのそれっぽく感じる。

 なのに、本人の自己評価がまったく追いついていない。


 その言葉が、彼女の逆鱗に触れたらしい。


 フィリアは顔を上げ、さっきまでの儚げな表情とは打って変わって、冷たい光を宿した瞳で俺を睨みつけた。


「あなたに、何がわかるんですか」


 突き放すような、鋭い一言。


 俺と彼女の間を、気まずい沈黙が通り過ぎていく。

 なるほど。これは、思った以上に厄介なことになりそうだ。

 俺の異世界ライフ、前途多難以外の言葉が見つからないのだった。

 

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