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仕事の才能に嫉妬されて婚約破棄を告げられた元最強バリキャリは、異世界でも『本気のマーケティング』を始めます  作者: フーラー
第4章

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4-3 生存者の声だけ聴いても、いい鎧にはならない

「うわ……」

「これは酷いな……」



殆ど軽症で帰ってきたテイラーたちとは異なり、ベルトラン達は全員ボロボロの身なりだった。


留守番をしていた兵士たちは、彼らに尋ねる。



「酷い矢傷だな……よく帰ってこれたな」



先ほどのテイラーたちへの声かけとは打って変わって、心配するような口調だった。

……だが、帰還兵たちの表情は明るい。



「ええ。……魔法にだけは強いですからね、この鎧……」

「ったく……。サラ嬢ちゃんがなんで、こんな鎧を作ったのか最初は分からなかったけど……」

「だな。こんなことは初めてだよな」


そんな風に言っていたのを見て、私は少し安心しながらベルトランに声をかけた。




「ベルトラン、お帰り」


彼もまた、自慢の髪が魔法で焼き焦がされているだけでなく、全身に刀傷を追っている。



「ただいま、サラ殿……」



「私たちの勝ちだな……。正直、悲しいことだが……」

「……みたいね……」




彼らは帰ってくるのが遅かったうえ、全員がどこかしらに傷を負って帰ってきた。




……そう、『全員』だ。

私が担当した兵士たちは、全員生きて帰ってこれたのだ。




「だが……テイラー達の軍は……そうか、4人も……」


ヨルムから詳しい戦果報告を訊くと、ベルトランは少し悲しそうな表情を見せていた。



(ベルトランは……テイラーの兵士に死者が出たのが辛いのね……)



そんな風に思うと、私も喜ぶ気にはなれなかった。

それに『私たちの勝ち』ということは、もう説明する必要もなさそうだった。



「あれ? ……ひょっとして、ベルトラン様の軍は……全員無事、じゃないですか?」

「うそだろ? あの魔導士ライラを相手にしたんだぜ?」

「魔導士相手に犠牲を出さなかったってことか? ありえないだろ?」



どうやら、周囲もそのことを理解してくれたようだ。

そう思いながら、私はベルトランと会話した時のことを思いだす。





「『生存者バイアス』……って知ってますか?」

「なんだ、それは?」

「今回話を訊いたの兵士たちはさ……。全員『生きて帰ってきた』人たちですよね?」

「まあ、当然だが……それがどうかしたのか?」

「気づきませんか?」


そういって私は一瞬含みを見せたが、ベルトランはピンとこないようだった。



「じゃあ、教えてあげます。……兵士たちが受けた傷は『致命傷にならない部分』なんですよ。本当に兵士を守るために必要な情報は……戦死者を見ないと分からないんです」

「……!」



それを聞いて、ベルトランはハッとした表情を見せた。

どうやら『現場の声を訊く』ことだけでは『現場から居なくなった人』即ち戦死者の声を無視してしまう弊害があると気づいたのだろう。



「言われてみるとそうだ……。なぜ、気づかなかったんだ、私は……」



王子様の立場は、所詮特権階級だ。

どんなに現場=戦場に顔を出していたとしても、一兵卒の立場よりははるかに安全な場所にいるため、気づきにくいというのは分かる。


私は続けた。



「兵士の話を訊く限り、矢傷ではそうそう兵士は死なないのでしょう。……それよりも、彼らが『言わなかったこと』……即ち魔法による攻撃の方が致命傷になるということでしょう。そのため、まずは魔法防御に特化した兵装にするべきです」


「なるほど……だが、魔法防御力を高める場合、重装備にならないか? 魔導士のもとにいち早く到着し、首を刎ねる方がいいのではないか?」



そう言われることも織り込み済みだ

だから、私はこう反論する。



「ベルトラン。戦争に勝つって一体どういうことだと思いますか?」

「む?」

「この世界の戦いは、殆どが少数の魔導士の力で決まります。にも拘らず、一般兵が大量に必要なのは、魔導士だけでは『戦争』に勝つことが出来ないからですよね?」

「ああ……兵士の仕事で一番大事なのは……制圧することだからな」


そう。

古今東西全ての戦争は『歩兵が場を制圧すること』で勝利が確定するといっても過言ではない。


これはゲームですら同様だ。

戦車も飛行機も司令官も、極端な話プレイヤーですら『歩兵に場を制圧させるため』のコマに過ぎないのだ。


「そうです。つまり、兵士たちに求められるのは『魔導士を殺すこと』ではなく、『敵の陣地を奪うこと』です」

「……そうだな……」



この世界では当然、魔導士たちは多くの兵士たちの恨みを買う。

そのこともあり兵士たちの目的は大抵『確実に損耗を抑えて場を抑えること』ではなく『敵の魔導士を殺すこと』になってしまう。


だが、魔導士を殺したり、敵の数を無理に減らしたりしなくとも、正しく拠点を包囲して逃げ場を奪えば、降伏させることができるのだ。


……まあ、派手に戦場を駆け巡り敵をバッタバッタと切り裂いていく話のほうがカッコいいので、私のやり方は戯曲にはならないだろうが。




そんな数日前の出来事を思い出しながら、ベルトランに私は尋ねた。


「魔導士ライラは……どうなりました?」

「ああ。……生きて捕らえることに成功したよ」



そういうと、後ろには縄で繋がれていた中年の女が憎らしそうな表情でこちらを睨みつけていた。

彼女以外にも、捕えた敵兵がお縄になっていたが、その人数は明らかにテイラーたちよりも多い。


「これが……私の『マーケティング』の力です」


そう、私は少しだけ得意げにベルトランに答える。



「……そういうこと、か……くそ……盲点だった……」



彼女はそもそも貴族階級の女騎士だ。

現場で倒れる平民の一兵士の命は、気にも止めていなかった……否、平民を人間扱いするような人が周囲にいなかったのだろう。



『生存者=今通っている顧客の声にだけ寄り添った品』を作っても失敗することを理解したようだ。



だが、当然この方法では兵士のケガは酷くなる。



ふと、アデルとルチナのほうを見た。

……問題ない、二人は大量の薬の準備を始めていた。

私がテイラーの治療をスムーズに行えたのも、彼らのために大量の薬を用意していたからだ。



「さあ、急いでみんなの治療をしないと!」

「くそ……私にも手伝わせてくれ……」



それでも、テイラーを治療してもらった借りを返そうとしているのだろう。

彼女は、そういって兵士の治療を手伝ってくれた。

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