4-2 先に帰ってきたのは当然マルシア達です
それからしばらくして、兵士たちは解散した。
早くとも、彼らが遠征から帰ってくるのは数日後になるからだ。
「ねえ、お姉さん」
そう考えていると、ヨルムが私に尋ねてきた。
「なあに、ヨルム?」
「お姉さんはさ……どっちが勝つと思いますか? ……あ、いや……別に、お姉さんの作った鎧をバカにしているつもりはないんですけど……その、僕は……」
「マルシアの作った鎧の方が、いいと思ったのね?」
「は、はい……正直、そうです……」
それはそうだろう。
彼のような伝令役には、私が作った鎧よりも軽くて動きやすい軽装備の方が向いているだろう。
私の鎧は、機動性をあえて捨てて代わりに魔法防御を限界まで高めた代物だ。
代わりに手足に着けていたプロテクターを外し、体の中心部を守るような形になっている。
まあ、行ってしまえば『胸甲騎兵』の装備に近いものだ。
「お姉さんは、なんでああいう服装にしたの?」
「ええ、それはね……」
そういって、私は簡単に今回の鎧の制作意図を解説した。
「なるほど、そういうことなんですね」
「ええ。……私のアイデアの問題点は、アデルに頼んで解決してもらうようにしているわ」
「そうなんですね……僕に出来ることはありますか?」
そういわれても、特に現段階ではすることはない。
あえて言うなら、ベルトランたちの無事を見守ってほしいことだろう。
「ううん。……あなたは、あなたのお仕事を頑張ってね?」
「はい!」
そういうと、私は道具屋に戻った。
アデルは私が帰ってきたのを見てとても喜んでくれたが、以前よりもルチナとの距離感が近くなっているのを見て、私はやはり距離を置いてよかったのかな、と感じた。
……そして数日後。
「騎士団が帰ってきたよ!」
俊足のヨルムが道具屋に来るなり私にそう伝えてくれた。
それを効き、アデルは少し驚いた様子を見せる。
「え? ……もう帰ってきたのか? 先に片付いたのはどっちだ?」」
「はい、テイラーさんたちの兵団です!」
「あ……そうか……」
アデルはがっかりしていたが、私は想定内だった。
今回の兵装であれば、軽量で動きの速い彼らのほうが早く帰ってくるのは当然だ。
そう思って私は広場に向かった。
「おお、帰ってきたぞ!」
「さすがはテイラー様だ!」
そんな風に口々に言いながら、彼らを賞賛する。
『帰ってきた』兵士たちは皆軽症で、大きなケガも無いようだ。
「新しい装備のおかげで、殆どケガしなかったですよ」
「ええ。マルシア様のお考えはやはり正しかったな」
そんな風に兵士たちはマルシアがあつらえた兵装を自慢気に見せる。……だが、唯一テイラーだけは傷が深かった。
武勇だけが取り柄の彼がなぜ? ……とも思ったが、その理由はすぐに解けた。
「テイラー様……お怪我は?」
「問題ない……かすり傷だ」
「私たちがこの程度の犠牲で済んだのも、テイラー様が魔導士をひきつけてくれたからだ……。どうか、早く手当をしてくれ」
「わかった」
彼が天幕に戻ったのを見て、私は薬箱を手に取った。
「まったく……しょうがないわね」
テイラーのことは気に入らないが、それとこれは別問題だ。
私は天幕に入ると、テイラーは意外そうな顔を見せ、マルシアは不快そうな顔を見せた。
「久しぶりね、テイラー」
「サラ……?」
「私に酷いことしたことは忘れないけど……。今回はしょうがないわよね……お疲れ様、テイラー。傷、見せて?」
私は天幕に入り、テイラーの傷口を確認する。
「……ああ……これは酷いわね……」
やはりそうだ。
兵士たちの手前強がっていたが、予想通り酷い傷跡がある。
「魔導士の闇魔法にやられたのね……」
「ああ、そうだよ。……けど、あいつは俺の手で仕留めたけどな」
そういえば、凱旋した兵士たちは棺を携えていた。
あそこには、魔導士の遺体が入っているのだろう。
「けど、これで分かったろ? ……マルシアの考えのほうが正しかったってな……いてて……」
「……本気でそう思ってるの? あなた、肝心なことが頭から抜けてない?」
「は? 何言ってんだよ。おかしなこと言うな……」
やはりそうだ。
彼にとっては、当たり前なのだ。
……戦に出た時と帰るときで、兵士の数が違うことなど。
(あなたにとっては、それが普通なのね……)
私はどこか、テイラーに対して同情するような気持ちになっていた。
……そしてしばらくしてテイラーの治療が終わった後に、
「ベルトラン様も帰ってきたぞ~!」
「ほう? 王子様達も帰ってきたのか……どれ、どれほど傷だらけになったのか、見せてもらおうか。……テイラー様、少し席を外すがいいか?」
「ああ。傍にいてくれてありがとうな、マルシア」
「……ああ……」
そういって見つめ合うこの二人は、皮肉ではなく『お似合い』のようにも感じた。
テイラーの『弱者を助けたい』という気持ち自体は嘘ではないのだろう。
……もし、それが正しい方向に向かうのであれば、それが一番いい。
私はそう思いながら、広場に向かった。




