3-4 闇魔法って戦い以外じゃ役に立たない気がします
それから数週間、私は兵舎の一室で寝泊まりしながら、新しい鎧の開発にいそしんでいた。
時には鍛冶屋に行って実際の兵装を確認し、時には実際に自分で装着してみて、時には配下の兵士たちにも実際に使ってもらってみた。
(ふう……やっと完成したわね……)
そして、試作品が今日完成したので私は鍛冶屋にヨルムを通して、ベルトランを呼び出した。
(今のうちにご飯食べておかないと……)
私は道具屋から届けてもらったお弁当を急いで口に運ぶが、その奇妙な味に思わず顔をしかめる。
(相変わらず、まずい……)
最初はアデルが作ったであろう美味な弁当だったが、途中から明らかにルチナが作ったことが分かる弁当に置き換わった。
……まあ、人間は『プレゼントをすると、した側が好意を持つ』という生き物だ。
そのことを知っているルチナは、あえてアデルにお弁当を作らせなかったのだろう。
「あれ、もう来たんですかベルトラン!」
「サラ殿! ああ、ヨルムから聞いたよ。新しい鎧が出来たんだな!」
さすがヨルムは足が速い。
ほんの一時間ほどで、彼に言伝を伝えてくれたようだ。
「はい、これがその品になります」
私は作ってもらった鎧を見せると、徹夜したのであろう鍛冶屋は、得意げな顔をしながら達成感にその品を見せた。
「正直、こんな注文を受けたのは初めてだったからな。結構悩んだが……割といいもんだと思うぜ?」
「なるほど……確かに、珍しいな」
そういうと、王子は私が用意した鎧を着てみるが、あまり表情は明るくならない。
「ぐ……こいつはやはり重いな……皆はどう思う?」
そして彼は、護衛として連れてきた兵士たちにも鎧を着てもらいながら尋ねる。
「うーん……やっぱりさ、俺はこの兵装はあまり好きじゃねえな……」
「ああ、もうちょっと軽くて小回りが効く方が良いかな……絹を使えばいいんじゃないか?」
「いいよな! あの伝説の戦士『フレッド』みたいにさ、ひょいひょいと攻撃をかわす戦士になりたいもんな!」
あまり私の作った装備は、彼らに評判が良くなかった。
……だが、それくらいのことは想定内だ。
(これがいわゆる『国民性』ね……)
この国の国民性を調べる上で様々な戯曲や戦話を聞いているうちに、私はある違和感を持った。
とにかく不自然なほど『重歩兵』が軽視され、逆に非力で身軽な軽歩兵が活躍する物語ばかりなのだ。
とにかく装備が軽く、小回りが利いて攻撃を回避する線の細いキャラ。
基本的に人気があるのはそういうキャラが多く、パワフルでマッチョな主人公はあまり人気がない。
……この国民性は、どこか私の出身国である日本にも似ていた。
(けど……攻撃魔法の精度向上に伴って、そんな方法では対抗できなくなっているのよね……。けど、幼いころに刷り込まれた『カッコいい軽戦士』の偶像が、彼らにそれを許さない訳か……)
恐らくは、現場の兵士たちの意見を吸い上げた場合、彼らの国民性に準拠したものになってしまう。
だが、それは近年の魔法技術の進歩にそぐわない、単に『魔導士を殺すためだけに特化した兵装』になってしまう。
そういう意味では、私が彼らの兵装に口出しするのも無意味ではないと思いたい。
そう思っていると、鍛冶屋のドアが開いた。
「む……くそ、貴様も来ていたのか……」
……女騎士マルシアだ。彼女も新しい兵装を準備しているのだろう。
だが、彼女は私の作った鎧を見るなり王子に対して皮肉をいってきた。
「これはこれは王子様、素敵なお召物ですな」
「そうだろう? ……サラ殿の意見を取り入れた鎧だ。どう思う?」
「フン……。戦にろくに出たことのない王子様らしいですな。腕は守られておらず、弓矢を防ぐことも出来ないではないですか?」
「……それはわざとだ。サラ殿がマーケティングの結果、それらの防御はあえて重視しないことにしたのだからな」
「なるほどな……まあ、私どもの装備もご覧になりますか?」
そういうと
なるほど、手足には強固なプロテクターを貼っており、腹部や胸部は盾で保護する簡易的なものになっている。
そして、質の良い絹のような繊維を使ったマフラーを身に着けている。
「私どもの目玉はこちらでしてね……接近戦での刃物に強い、特別な虫の繊維で作っているのですよ」
なるほど、最近の訓練では確かに接近戦での剣での稽古ばかりやっている。
そもそも、演習自体が見栄えのする白兵戦ばかりやっているのも理由なのだろう。
……確かに現場の兵士のニーズに見合ったものと言える。
間違いなく、人気投票をすれば勝つのは向こうだろう。
「さて……ところで、私どもの鎧とあなた方の鎧、どちらのほうが優れているのかをどのように判断するのですか?」
そうマルシアが言ったところで、ちょうどまた鍛冶屋に誰かがやってきた。
「すみません、ベルトラン王子……あ、サラさん、こんにちは」
「ええ。元気だった?」
そういわれて、彼はにっこりと笑顔を見せてくれた。
彼も本来は、優しい心根の少年なのだろう。
「はい! ……それで王子。先日宮廷に現れた賊のことですが、テイラー将軍が場所を割り出してくれたようです!」
「なに、そうか? ……どこにあるのだ?」
「はい、北西と北東にアジトを構えているようです! ……兵力は同程度ですが、どちらにも魔導士ライラとレイラの姉妹がいるそうです」
それを聞いて、
「そうか……やはり、あの二人か……」
確か、その双子の姉妹については私も聞いたことがある。
宮廷魔導士として高位の実力を持っていたが、基本的に産業に転用しやすい各種の属性魔法と違い、戦時中以外では闇魔法は使うことが出来ない。
また、性格的にも協調性がなく疎まれていた彼女たちは、今回の軍制改革に置ける人員整理の対象となっていた。
「ほう……ちょうどいいじゃないですか?」
そう、それを聞いてマルシアは答えた。
「戦力もちょうど同程度なら……私の兵装と、あなたがたの兵装とどちらが上か、試す機会になるのではないでしょうか?」
「しかし……」
それは一種の人体実験だ。
ベルトランが二の足を踏むのもわかる。
……だが。
「そもそも、人気投票で決めたらあなた方が負けるのは火を見るより明らかでは?」
「む……」
「それならいっそ、あなたの子飼いの兵たちに一度その装備を使っていただく方がまだいいと思いますが……」
相変わらず嫌味な物言いだ。
そう思いながらも、私はうなづいた。
「……それならその勝負、受けて立つわよ」
「サラ殿?」
ベルトランの優しさは買うが、ここではやはり受けて立ったほうがいい。
そう思い、私は彼女に対してそう答えた。




