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仕事の才能に嫉妬されて婚約破棄を告げられた元最強バリキャリは、異世界でも『本気のマーケティング』を始めます  作者: フーラー
第3章

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17/23

3-3 今日からしばらく兵舎で生活していいですか?

翌日、私はベルトランのもとに大量の資料とともに兵舎に到着していた。

王宮よりも道具屋から位置的に近いからというのもあるが、一番の理由はテイラーと顔を会わせたくなかったからだ。



「すみません、ベルトランはいらっしゃいますか?」

「ああ、ちょっと待っててくれ」



私は以前受付で出会った兵士に話をすると、すぐにベルトランがいる兵舎に案内してくれた。



「そこだ!」

「甘いですよ、殿下!」

「それ!」


そんな風にベルトランは配下の兵士たちと一緒に鍛錬をしている姿があった。



(ベルトラン王子……やっぱり、強いのね……)



兵士たちは身なりから考えても、近衛兵のような精兵だろう。

彼らは決して弱いわけではないことは、素人の私でもすぐにわかる。


だが、そんな彼らをベルトランは次々に倒していっている。



「…………」



彼のそんな姿に私は見惚れながら、その様子を見ていた。

ただ一つ気になる点といえば、彼の戦い方がテイラーのそれと酷似していることだろうが、それはやむを得ないことだ。



その様子を見ていると、後ろから誰かが来るような声が聞こえた。



「すみません、ベルトラン王子……あ……」


振り向くと、そこには少年の姿があった。

……彼は先日私の店から非常食を盗んだ子だ。だが、今は簡素な軍服に身を包んでいる。



「あら、あなた……どうしてここにいるの?」

「あ、あの……」



だが、彼はその質問に答える前に、頭を下げてきた。



「あの時はすみません! どうしてもお腹が減って……それで盗んじゃって!」



そう頭を下げられたら、これ以上追及する気にはなれない。

私はそう思いながら、少年に対して優しい声を意識して語りかける。



「もういいのよ。ベルトランにお代も出してもらったし。……けど、もうしないでね?」

「はい! ……その、今は王子に雇ってもらったので、もうお金は払えます!」

「雇ってもらった?」

「はい! ……なんでも、伝令兵を刷新するということで、足の速い人を求めていたって言われたんです!」



そういえば、以前ベルトランと書簡で話をしていた時に、そんな話が出ていた。

……確か、伝令兵は今までは騎兵がその役割を担っていたらしい。



だが、この世界はゲームの世界ではない。

馬はその維持に膨大な予算がかかることに加えて、遠距離での書簡のやりとりでもない限り、足の速い歩兵と比べてそこまでコストパフォーマンスは優れていない。


戦争の終結に伴って遠距離の兵士と書簡をやり取りをしなくなった以上、安上がりな歩兵を使った伝令に切り替えたのだろう。


日本において「飛脚」が江戸時代において多く用いられていたのと理由は同じようなものだと考えれば納得がいく。



「今は伝令として頑張っているのね?」

「は、はい! ……その……この間のお詫びになるか分からないけど、どうぞ!」



そういうと、少年は私に小さなペンダントを差し出した。



「これは?」

「その、最初にベルトラン王子から貰ったお給料で買ったんです! いつか、お詫びに渡したいと思っていたんですが……。なかなか、お姉さんの店に行く勇気が無くて……ごめんなさい!」

「……フフ、ありがと」



この子も、素直なところがあるんだな。

そう思いながら私はそのペンダントを身に着けた。



「ところで、名前はなんていうの?」

「は、はい! ……ヨルムといいます」

「そう……また、お店に来てね? 今度はお客さんとして」


そういうと、ヨルムの顔がぱあっと明るくなる。

その顔つきは、本当に少年らしい可愛さとあどけなさがあった。

……昨日の一件が無ければ、ルチナに紹介していたことだろう。



「ええ、ありがとうございます! それじゃあまた!」



そういうと、ヨルムは手紙を近くの兵士に渡して爽やかに去っていった。




「あれ、サラ殿?」



しばらくして、ベルトランが戻ってきた。

鍛錬でかいたであろう汗を拭きながら、私に笑顔を見せてくれた。



「久しぶりです、ベルトラン」

「ああ。……あれ、そのペンダントは……」

「ええ、ヨルムに貰ったんです。……いかがですか?」



そういうと、ベルトランは少し安堵したような様子を見せた。



「そうか……。ヨルムと会ったんだな。……彼は前からサラ殿に会いたがっていたからな。彼のことは許してくれたのか?」

「ええ。……まあ、ベルトランが代金を払ってくれたわけですから。今度また、お客さんとして来てほしいと言っておきました」



ベルトランは、彼のことを気にかけていたのだな。

そう思うと、私は彼の気遣いに改めて恐縮した。



「それで、兵装案は固まったのか?」

「はい。……計画は出来たので、詳しくはこちらで……」


そういって、私は兵舎にある机の上に資料を置いた。




「それで、今度の兵装で大事なのは『現場の声が全てではない』ということです」



そして私は今回の説明を行うと、ベルトランは深くうなづいた。



「なるほど……さすがサラ殿だ。予算の方も私の想定を大きく下回っている」

「ええ。この国の国産品を大量に使いますから」

「それでは、明日から本格的に製造から入るわけだな。鍛冶屋で詳しい話をしよう」

「はい。……ところで、お願いがあるのですが……」

「なんだ?」



私は、


「しばらくですけど、この兵舎で寝泊まりさせていただいていいですか?」


それを聞いて、思わずベルトランは驚いたような表情を見せた。



「どういうことだ?」

「あの……正直、兵舎に毎日通うのは大変ですので……それで、試作品の製造が終わるまではベルトランとも連絡を密に取り合いたいので……」



正直、これは口実でもある。

一つの理由は、ルチナからお願いされたからだ。



出来る限り、アデルと距離を置いてほしいと、昨夜彼女に涙ながらに頼まれた。

彼女は、義兄であるアデルのことを本気で好きだと言っていた。


だからこそ、私がアデルと一緒にいるのが、やっぱりどうしても受け付けないらしい。



……そしてもう一つの理由として、私自身がベルトランともう少し頻繁に会いたいという気持ちがある。


そのことは言わなかったが、ベルトランは、


「わかった。……それでは、兵舎の近くにあなたの個室を用意しよう」



そう言ってくれた。

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