2-4 お客さんのいうことを聞けばいい商品ができるの?
しばらく私は、そのまま歩いて兵舎の入り口付近まで来た時に、ベルトランは申し訳なさそうな声を出してきた。
「あ、あの……サラ殿……」
「え?」
マルシアから早く離れたいあまり、勢いよくベルトランの手を掴んでいたことに私は気が付いた。
そういえば、この人は王子様だった。
思わず私はその手を離した。
「ご、ごめんなさい、つい……」
「い、いや、いいんだ……」
「それと、今まで凄い失礼な態度取ってませんでした、私? ……すみません!」
今にして思うと、私は一国の王子様相手にまるで友人のような態度を取っていた。
そのことを思った私は勢いよく頭を下げる。
「いや……気にしないでくれ。……というより、今まで通りに接してくれるほうが私も嬉しいからな」
「そ、そうですか?」
「ああ。正直私は小さい時から王宮暮らしだったからな。友人というと、アデルくらいしかいなかったから……だから、一緒にいてくれると嬉しいな」
そういうと、照れくさそうな表情でそう私につぶやく。
……そうか、この人は今まで女性で個人的に付き合えるような友人がいなかったのだろう。
そもそも戦争で周辺国との関係が悪化していた。
加えて私たちの国は弱小国ということもあり、これといった許嫁も政略結婚の相手もいなかった。
妙に女性に慣れていないのは、それが理由なのだろう。
「わかりました、なら今まで通りいきますね、ベルトラン様?」
「ああ、ありがとう」
そういうと、私たちは兵舎に入っていった。
「なんだい、お嬢ちゃん?」
「あれ、ベルトラン様も。なんですかい、恋人かなんかですか?」
兵舎に入ると、そこにはいかにも荒くれものといった容貌の兵士たちが20人くらいいた。
見たところ一般兵のようだが、その眼光は鋭い。
恐らく、長引く戦争を生き延びた歴戦の猛者といったところだろう。
せっかくだ、少しだけからかっちゃおうかな。
「あれ、よくわかりましたね? ……私、この間ベルトランと婚約したんです!」
「な……ちょ、ちょっとサラ! 何言ってるんだ!?」
「ひええええ! あの堅物の王子がいつのまに~?」
「いええええい、祝福しますよ、ひゅーひゅー!」
周りの兵士たちもそんな風に王子を囃し立てる。
まあどう見ても本気ではないだろうが。
「か、からかわないでくれ!」
「けどどうなんすか? 実際、王子様はその嬢ちゃんのこと、どう思ってるんですかい?」
「え?」
そういって私の方をちらりと見た後、
「そ、その……。彼女はな、プロの商人なんだ! そういう目で彼女を見るのは失礼ではないか!」
そう答えた。
「……ま、まあそうですよね……」
私を対等のビジネスパートナーとして見てもらえるのは嬉しい反面、もう少し私を女性として見てほしいという複雑な気持ちになりながらも、私はそう答えた。
「それにしても、ベルトラン様はここの方々と仲がいいんですね」
「ああ、昔からともに戦ってきた仲だからな。よく訓練も参加していたんだ」
まあ、このアルドラン王国は弱小国家だ。
そのため王子様と配下の兵士たちの距離感が近くてもそこまで驚くほどではないか。
そう考えていると、兵士たちが尋ねてきた。
「それで、婚約者の紹介じゃないとしたら、ここに何しにきたんですかい?」
「ああ、実はな……」
そこでベルトランは、今度行う軍制改革で、特に兵士の個人装備を大幅に刷新する旨を話した。
「そこで、今までの戦争の体験を経て、諸君らが『どんな装備があったのか』について聞かせてほしいんだ」
「なるほど、そりゃいいっすね!」
「ああ、もう今の装備で戦うのは辛いっすから!」
そういうと、兵士たちは口々に話をしてくれた。
「やっぱり……今度の装備は動きやすい奴がいいっすね。俺たちをつるべ打ちにしやがった魔導士どもにさっと飛びついて、ぶった斬ってやりたいっすから!」
「なるほど、魔導士か……」
この世界での戦争の仕方は、大きく3つのフレーズに分けられる。
まず最初は、魔導士たちによる各種の魔法による集中砲火だ。
これは20世紀初頭の戦いにおける大砲のようなものだろう。そんなものが、何の動力も原料もなくぶっぱなせるのだから、現代日本人の感覚からすればたまったものではないが。
この魔導士は高度な教育を受けた専門の兵士たちが担うことになる。
……そして、それを兵士たちは耐えながら進軍を続けると、今度は弓矢による攻撃が続く。
この弓使いたちも、現代のそれとは異なり魔力を込めた弓を撃つことになるため、これもまた魔法の素養がある兵士たちが行うことになる。
その猛攻を耐えきったあと、ようやく彼ら一般兵たちによる白兵戦が行われる。
その際に、味方の兵士は魔法兵を真っ先に狙う。
「やっぱり、魔導士は最初にぶっ潰したい相手っすからね!」
「そうそう。あいつらに何人戦友を殺されたか……最悪の場合、一人の魔導士に1,000人はやられちまうんすよ……」
なるほど、文字通り一騎当千。それほどまでに魔法兵は脅威になるのか。
それに加えて、一般的に魔法兵は貴族階級がなることが多いので、それに対する嫉妬もあるのだろう。
「なるほどね。他にはどんな要望があるの?」
「ええ。やっぱ、俺たちが怖いのは弓の攻撃っすね。あれでよく手足をやられて戦えなくなるってことがあるんすよ」
「ああ、わかる! そうそう。俺もあれで一度動けなくなっちまってさ。野戦病院も大体弓矢でケガしたやつが多いぜ?」
「へえ……なるほど、他には?」
「後は……腕や足をやられると戦えなくなるんすけど……割とそのあたりの装備は頑丈にしてほしいかな」
「そうそう。見てくださいよ、これ!」
そういうと兵士たちは自分たちの体を見せてくれた。
腹部や背中には殆どけががないが、その代わりに手足にはおびただしい傷があり、彼らの歴戦の戦いの跡が伺えた。
それからしばらく、彼らによる兵装の問題点をあげてもらった。
「そんなところっすかね……」
「うん、なるほどね……ありがとう」
「もう大丈夫か、サラ殿」
「ええ、大体わかりましたので。……ありがとうございます」
そう私が頭を下げると、また兵士たちがからかうような口調で見送ってきた。
「今度来た時には、もっとイチャイチャしてる姿、見せてくださいよ!」
「ほんと、キスくらい早くしなよ、二人とも!」
まったく、下世話な奴らだ。
とはいえ、決して悪人ではないのだろう、そう思いながら私は兵舎を後にした。
「その……すまないな、サラ殿。正直下世話な連中ばかりで……」
「いえ……。まあ、私がからかったのも原因でしたから……」
正直、高校の時の男子生徒のノリだったな、彼らは。
ベルトランもよくまあ、彼らを手なずけたものだ。
「それで、その……兵士たちの声をもとに、いいアイデアは浮かんだか?」
「うーん……」
彼らのいうとおりに鎧を作れば、恐らくだが彼らが喜ぶものが出来るだろう。
……だが、私は少し違和感を感じた。
そもそも『顧客の望むものを作ることが、必ずしも品質の向上に繋がる』その前提が間違ってないか?
『顧客の声を聞きましょう』というが、実際には『逆』なのではないか?
そんな風に思ったため、私はベルトランにお願いした。
「すみません、ちょっと揃えてほしいものがあるのですが……」




