ユメノハナシ ~猫の夢~
ずっと前から――そうだったでしょ。
猫を飼うことにしたの――
動物嫌いの妻がそう言ったので驚いた。
庭に猫が居着いているのは知っていたが、まさか家で飼うことになるとは。
呼ぶとすぐに来るのよ、ほら――
妻が声をあげると、青い目の生き物が駆け寄ってきた。
獣の臭いがする。
乱れた歯並びの牙に、終始外へ出された長い舌と荒い息――
これは――
犬じゃないか。
何言ってるの、猫じゃないの。
ずっと前から――そうだったでしょ。
そうだったっけ。
ぼんやりとそう思っていると――
目が覚めた。
変な夢を見たよ、と妻に言いながら茶色い毛の猫に水をやる。
霧吹きで水をかけてやると、器用に口の中に溜めて飲み下しているようだ。
あら、そう――
妻はそう言ったあと、困ったように続けた。
それより、この家で新しく一緒に暮らすことになった人達のことなんだけど――
妻は厭そうな顔で言った。
仕方がないだろう、身寄りがないらしいから――
二人とも外国人だから、なおさら大変だろう。
一人はいいんだけど、あの、角の部屋に住む事になった方の人は――厭だわ。
だって蜘蛛を飼ってるじゃないの。
確かに、大きな蜘蛛を腕に乗せていた。
じきに慣れるさ――
気づくと、猫はぼたぼたと水を口から溢していた。
そこで再び――目が覚めた。
変な夢を見たよ。
踝まで溜まった水をじゃぶじゃぶとかき分けながら、私は妻に言った。
リビングに水が溜まっているということは、浴室の掃除中なのだろう。
シャワーを浴びたかったが、掃除中なら仕方がない。
ふと、庭のフェンスが破れていることを思い出した。
尖った金属が剥き出しで、猫が通る時に危ないかもしれない。
そう妻に伝えると、
大丈夫よ、もう玄関まで来てるじゃない――
妻はそう言った。
玄関には――
大きな黒い犬が二頭並んで座っていた。
犬の荒い息遣いを聞きながら――
飼っていたのは猫じゃなかったっけ、と首を傾げた。
そこで――
ようやく目が覚めた。
飾ってある遺影と――
目が合った。