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第8話:お後がよろしいようで

「──おーい、お前ら大丈夫かーッ!?」



 

 よっつんを友人たちに預け、照を探して戻って来た亜紀良が手を振ってやってくる。

 周囲にはツバサが呼んだとおぼしきシノニムの役員達が警戒線を張っていたが、亜紀良の顔は既に周知されているのか、そのままバリケードを通してもらえたのである。

 

「ア、アキ君……」


 不満そうに唇を尖らせていた照は、亜紀良を見つけるなり、少し嬉しそうに顔を輝かせるが──同時に気まずさも覚えたのか、ふい、と顔をそらしてしまうのだった。

 その代わりと言わんばかりに、ツバサが淡々と報告した。もうレプリレクスは何処にもいない。


「……ケツァルコアトルスは撃滅出来ましたよ」

「って、誰のおかげだと思ってるの!?」

「大型獣脚類型の絶滅少女は殺しても死なないくらいには頑丈ですから。あれが一番手っ取り早かったです」


 ちなみに私が同じ事をされたら死にますよ、とケロッとツバサは言ってのける。元になった恐竜のサイズや種類で、絶滅少女の耐久力は変わってくるのだ。

 それはそれとして、彼女が「いい性格」をしているのは確かだった。彼女は、レプリレクスを撃滅するという目的の為ならば──最速で実行できる選択肢を迷いなく選ぶ。


「重要なのは、限られた人員と時間でレプリレクスを倒せるかどうか──です。人が消されてからでは、遅いですから。後悔の無い選択をしたまでです」

「何一つ反論できない……でももやもやする!! ぐにににに」

「照さんが居なければケツァルコアトルスには勝てなかった。それは事実です。援軍が来るまでの間に、あいつに何人消されたか分かりませんから」

「なんか知らねえけど、大変だったっぽいな……」

「そーだよっ! おかげさまでね!」

「よっつんは病院に運ばれたし、てるてるの友達は──お前の事心配してるけど、これからどうする?」

「そうだ。一度、顔を出しておかなきゃ──あたしは大丈夫だよー、って」


 そう言いかけてハッとしたのか、照は亜紀良に向き直った。そして──素直になれない自分を抑え込み「あのね、アキ君──」と呟くように言おうとした時だった。




「──ごめんッ!! 俺、照の事、嫌な思いさせた!!」




 だが、その前に割り込むように頭を下げた亜紀良が謝罪の言葉を切り出す。

 普段の彼からは考えられない勢いに、面食らい──照は目をぱちぱちと瞬かせるのだった。

 基本、傲岸不遜で唯我独尊な亜紀良がこうして自分から謝ることは本当に稀だったからである。


「ア、アキ君……!?」

「……俺……あんなにオマエが怒ったの初めてだったから……勇気出なくて……なかなか謝れなかった。俺が無神経な事言った所為で──怒らせた。一番困ってんのは、急に体が変わっちまった、てるてるなのに……全然お前の事、考えてなかった」

「アキ君……」

「嫌われても、仕方ない事を言ったし、やったと思う。お前が辛い時にヘラヘラして……嫌なヤツだったと思う。でも俺、それでも……照に嫌われたくは、なくって……」

「……そーだよ。昔っから、無神経で無鉄砲で……余計な一言言って、ヒンシュク買ったり。あたしじゃなきゃ、愛想尽かしてるよ」

「ウグッ」


 反論が出来ない。実際昔からそうしてトラブルメーカーだったのは言い逃れが出来ない事実だったからだ。


「……アキ君、頭を上げて」


 亜紀良は──恐る恐る顔を上げた。もうそこには、いつものように穏やかに微笑む照の表情があった。


「あたしも同じだよ」

「……てるてる……? 同じって……」

「怒って……アキ君に嫌な態度取った。怒ってるのを見せて、困らせて……ごめんね」


 彼女は一歩、亜紀良に歩み寄る。そして、彼の宙ぶらりんになった右手を両の掌で取るのだった。


「あたし、あの時は戸惑ってた。いきなり手に入れた力の事、分かってなかった。すっごい災難だって思ってて、すごく不安で……。今も多分、力の意味は……まだ分かってないかもしれない。でも──」


 照は伸びた爪を見やる。

 変身をしたからか、ネイルはぐちゃぐちゃになっており台無しになってしまったが──それでも、何処か彼女は誇らしげだった。


「テリジノサウルス、だっけ。ちょっとだけ悪くないと思ったかな」

「何で? あんなに爪が伸びるの、嫌がってたじゃねえか」

「確かに嫌だよ。長年続けてたネイルを台無しにされて、穏やかでいられるほどあたしは大人じゃない。でもね、遊園地を滅茶苦茶にされて、友達を傷つけられて、それでもイヤイヤ言ってられるほど、あたしは子供じゃないよ」


 照は──ツバサの方を見やる。友人が倒木の下敷きになり、己の無力さを痛感した時、ツバサの言っていた「後悔したくない」という言葉を、心で理解することが出来たのだった。


「あたしは、ヒーローにはなれない。世界中の人を助ける! 人類を救う! ……みたいな、立派な心意気があるわけじゃないし、ツバサちゃんみたいに覚悟が決まってるわけでもない。でもね! この大きな爪が届く範囲で助けられる人を見過ごしたくない」

「戦うのか……?」

「──あたしの爪で……命を落とす誰かが一人でも減るなら……誰かを助けられるなら……頑張ってみたいよ」


 それは、真の意味で彼女が絶滅少女として戦うことを決意した瞬間だった。

 照の真剣な表情を見て、亜紀良も頷く。幼馴染の選択を無碍には出来ないし、もし彼女が修羅の道を歩むならば──自分も隣を歩むだけだ。


「……なら、俺もお前の隣に立つ。どれだけ役に立つかは分かんねーけどな」

「アキ君の良い所なら沢山知ってるよ。恐竜の事、いっぱい知ってるし──誰よりも一生懸命で、そして優しい所」

「俺は……そんなに褒められた人間じゃねーけどな」

「それに、あたしを……あたしの友達を迷わず助けてくれたところ」

「……ッ」

「それだけで、あたしは……アキ君の事、誇らしく思えるよ。だから、そんなアキ君に、これからも隣で戦ってほしいって思ったんだよ」

「……へへ。よせやい、照れるじゃねーか」

 

 気恥ずかしそうに二人は笑い合う。

 その様を、呆れたように腕を組みながらツバサは眺めていた。正直、妬けるものがある。


(やれやれ……とんだ二人です。これで一件落着ですか)


 二人の仲だけではない。霧島 照という獣脚類型の強大な戦力がシノニムには加わった事になる。

 それは、大きな進歩であり、彼女にとっても人類の未来にとっても有益な結果だ。組織人としての役目をツバサは果たせた事になる。

 だが、それはあくまでも組織人としての話。ツバサ個人としては──少なからず不安もあった。結局の所、照は「元・普通の高校生」でしかないのだ。




(爪の届く範囲、ですか──その爪は、貴方が思っている以上に、大きく、長いです。……しんどくなりますよ、これから)


 


 ※※※




「だーかーらー、見たんだって!! テレビでも連日話題になってんだろ、デカい恐竜!!」

「でもさぁ、カメラにも何にも映ってないし、バルーンが割れた時のガスを吸った事による集団幻覚なんじゃねーかって言われてんだよなあ」

「あいつが羽ばたいた時の風も竜巻だったんじゃないか、みたいに言われてて」

「あははは……でも、良かったよ。皆、無事でさぁ」


 ──その次の月曜日。 

 いつものように照の机に集まる女子高生たちは、先日起こった事件についての話題で持ち切りだった。

 既に消滅させられた黒い翼竜については、スマホのカメラに映らなかったことで何処にも証拠が残らなかったが故に、正体が何だったのか連日ニュースでも取り沙汰されている。

 しかし、結局の所、肝心のケツァルコアトルスが消えてしまったのでそれを確かめる術はない。レプリレクスの存在は、結局公からは葬られたままなのだ。


「照ちゃんも見たよな、あのバカデカい恐竜!! 羽根の生えたぐわーって鳴いてるヤツ!!」

「あははは……でも、カメラに映らなかったってことは、もしかしてオバケだったりして」

「恐竜のオバケとか居るのかよ!?」

「いるかもよ?」

「ヒィィィィ……!」


(ま、現実はオバケより怖かったんだけどね……)


 震え上がる友人たちを前に、冷や汗を額に伝わせながら照は言った。


「でも、世の中には科学では解明できない事もあるっていうよ。そういうことにしておこうよ!」

「はぁー、真相は闇の中、かぁ。……ところでさ、照ちゃん」

「なぁに? よっちゃん」

「お前ら喧嘩してたんだよな……何で古田の奴、遊園地に来てたんだ?」

「え”」


 困ったな、と照の額に冷や汗が伝った。訳については、後から聞いたのだ。遊園地付近で不可解な墜落事故があったため、それがレプリレクスの仕業ではないか、と踏んだツバサが亜紀良共々辺りを張っていた──というのが真相だ。

 結局の所ツバサのカンは当たったし、亜紀良が居なければよっつんを助ける事は出来なかった。しかし、それを馬鹿正直に言うのも変な話である。故に──




「謝りたかったんだって! アキ君、素直じゃないからさー……あの後、土下座して泣きついて謝りにきたんだよ! アキ君やっぱり、あたしが居ないとダメダメで……本当に仕方のない幼馴染だよー!」

「どっかのおのぼりさんが遊園地で迷子になってねーか、見に来てたんだよコラ」




 全員は振り向く──そこには、露骨に顔を真っ赤にして口を尖らせる亜紀良が、カロリーメイトを持ったまま立っていた。顔は笑っているが、右目はヒクヒクさせている。ちょっと「おこ」である。

 誤魔化してくれたのは良い。問題は、その中身だ。


「ア、ア、アキ君……!? あははは……」

「オメー、そうやって普段から俺のある事ねぇ事友達に吹き込んでんじゃねーだろな……!」

「元はと言えば、アキ君があたしを怒らせるからいけないんだよっ!」

「それとこれとは話が別だろが!! おい待てコラ、逃げるなてるてるーッ!!」


 教室ですぐさま追いかけっこを始める幼馴染二人。

 そんな彼らを見て──よっつんは苦笑する。傍から見れば、付き合っていないのが不思議に思えるくらいだ。


「悪い奴らじゃねーんだよ、絶対に。だけど、損した気分だわ何だか」

「よっつん心配してたもんねー、照ちゃんの事」

「はぁー……蓋を開けてみれば、お互いの事大好き過ぎかよ」

「……喧嘩する程、仲がいいってこったねー。てか、正直照ちゃんも大概古田に甘えてるところあるよな」


 ピッタリな言葉を挙げるとするならば──「お後がよろしいようで」。

「ところでアキ君──これから隣で戦ってもらう上で、1つ聞きたいんだけど」

「何だ? 今なら何でも答えるぜ」

「本人から聞いたんだけど、ツバサちゃんの羽毛を拾った挙句、鼻血流して興奮したってのは悪質なデマなんだよね?」

「あ”ッ」

 

 あーあ。

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