エピローグ キセの行方
翌朝、保健室には一時間目から二人の姿があった。しかも奏音ちゃんは、登校してきたミラちゃんを見るなり立ち上がると、嬉しそうに、
「ミラちゃん!」
と声を発したのだった。
まるで、今まで口が利けなかったのが嘘であったかのように、魔法が解けたかのように、二人はごく自然に再会を喜び合い、どうしていたの、元気だった? と会話していた。
「授業時間中だよ。お話は後で、休み時間にね」
奏音ちゃんが喋っていることにはあえて反応せずに、私は遠くから声をかけた。
二人は、はあい、と機嫌よく返事して、それぞれの学習に取り掛かった。
その日の給食は、二人は机を突き合わせ、「先生も一緒に」と私も誘われて、はじめて三人で食べた。
二人はお気に入りのネット動画について話し合い、それ知ってる、私も好き、と盛り上がった。それらは最近のものというより、ほとんどは私が高校時代に見ていた古い動画で、私も知ってる、と思わず言うと、二人は興奮した様子で、さらに話に花が咲いた。
それからずっと、二人は毎日保健室に登校し、机を並べて一緒に過ごしている。最近では学校の外でも交流しているようで、今度一緒にプラネタリウムへ行くと楽しみにしている。奏音ちゃんが笑い、授業時間中にミラちゃんとひそひそ話しているのも珍しい光景ではなくなっていった。平和な日々が続き、そのうちにミラちゃんも奏音ちゃんと私と一緒に四階へ上がり、自分の給食を教室で受け取れるようになった。
キセにまつわる怪現象が起きることは二度となかったが、私には時々、ミラちゃんにキセが重なって見えることがあった。二人がキセのことなど忘れてしまったかのように話題にしないので、確かめようもなかったのだが……。
おそらく恵は来年度も育休を取り、二人の卒業式まで私が見守ることになるだろう。
給食を囲む私たちのテーブルはいつでもあたたかく、薄暗い。
二人が巣立っていくその日までこの居場所を守ってあげたいと、私は願っている。
最後までありがとうございました――




