7‐4 学校として
さて、委員会は荒れに荒れた。
放課後私に個人的に会いに来たのを最後にミラちゃんは登校してこず、奏音ちゃんの「入れ替わり」は引き続き一度も起きていなかった。そのため議論はミラちゃんの不登校をどう評価するかが焦点になり、職員室登校ができていないことを以て学校は限界だという見方と、「奏音ちゃんと一緒に保健室なら来られる」と本人がいうならもう一度戻してみてはという意見に真っ二つに割れた。
七瀬先生は奏音ちゃんの状態が安定したので二人一緒にしても良いのではと私たちの側に立ったが、光里先生はこれまでの経緯から再び問題が起きるだろうと反対した。
学年主任の黒田先生は、そもそも彼女が職員室登校できるようになれば教職員の負担が大きすぎるし、私やカウンセラーでも手に負えないものを一般の教員が相手するのは無理があると、自分のいないところで決まった現行の措置に不満を唱えた。専科の先生方が頷く。
教務主任は、学校が「職員室が駄目だからやっぱり保健室」とコロコロと対応を変えてなんとかしてしまうと、親はそれでいいつもりになり、いつまでも病院に連れて行かない、適切な治療に繋がらないと主張し、もう引導を渡すべきだと断言した。黒田先生もそれには同調した。
全体としては、出席者の発言は学校としてできることは既にしており、後は外部に委ねるべきだという意見に偏っていた。再び保健室は難しいかと思われたところで、ずっと聴くに徹していた副校長がぽつりと言った。
「ミラちゃんが精神疾患を抱えているというのは、確定事項なんですかね」
白熱していた空気が固まり、副校長が続けて発言した。
「だってそれはお医者様が診断することで、僕らにはわからないじゃないですか」
「だからこそ、診断がつくのか診てもらうためにも病院へ連れて行くべきなんです。話はそれからです」
教務主任がつっぱねたが、七瀬先生は反論した。
「とりあえず保健室でも登校させながら、受診の説得を続けていくことはできますよね。本当に酷いことになったらさすがに佐野さんのお母様だって考えるんじゃないですか、ご自身も精神疾患をお持ちなんだから。私はそれより、ミラちゃんが一人で家に引き籠っていることの方が心配です。お家にいてもネグレクトされているみたいだし、学校がいくら言っても連れて行かないものは行かないってこともあり得ますよね。コカセンは門前払いだったって、機能しないみたいだし。だったらとりあえず学校へは来て、給食を食べて、気の合うお友達がいる方が、彼女のQOLにとってはよほどいいんじゃないですか。せっかく二人、仲良くなりかけてたところだったそうですし。奏音ちゃんも一人きりよりお友達がいた方がいいと思うんですけど」
七瀬先生に続けるように、佳苗先生も言った。
「こないだは奇跡的に会ってもらえましたけど、今週は駄目で。家庭訪問だと本人とはほとんど会えなくて……。私としては、ミラちゃんの顔が見えなくなってしまうのは、心配です。来てくれてた方が、家庭とのコミュニケーションもとりやすいですし」
「学校として匙を投げたという風にはできないですよね。本校の児童なわけだから」
再び副校長が言った。
重苦しい沈黙が流れた。
「酒井先生的にはどうなんすか。あの二人をまたまとめて見るのはOKなんすか」
黒田先生が尋ねた。
「私としては、二人が一緒にいられて、問題も起きなければそれが一番いいと思います」
「だから、そうできるんすか」
畳み掛ける黒田先生に、教務主任が鋭く言った。
「そのさ、保健室なら酒井さんが一人で背負うっていうのも違うと思うよ。前回も、とりあえずこの人に投げようって感じで決めちゃったけど、そもそもそれが浅はかだったし、産代で経験もないんだから無理だと思う。やるならもっと、皆で支える意識をもたないと」
七瀬先生が続けて言った。
「その点は私も反省してます。居場所は保健室だけど、モモ先生に任せきりにしないで、皆で見守っていくということですよね」
それまで目を瞑って聞いていた校長が、ようやく口を開いた。
「わかった。目が届くところに置いとく方が安心だというのは確かにそうだ。もう一度だけ保健室登校をやってみよう。個別指導も交えながら。責任は私が取る」




