7‐3 引き裂かないで
翌日木曜日の放課後、ミラちゃんは予告通りに現れた。二週間ぶりに会った彼女は、前髪がさらに伸びて、服装はいかにも部屋着という感じのグレーのジャージの上下だった。学校の前まで車で来て、母親は車の中で待っているという。
一応校長の許可も得て、私たちは無人の保健室に入った。
「……お久しぶりです」
やや硬い表情で、彼女から切り出した。
「会えてよかったです。モモ先生とも、もう会っちゃいけないのかと思って」
「そうだったんだ。ごめんね」
ミラちゃんは首を振り、単刀直入に言った。
「キセが怖かったからですよね、奏音ちゃんと別々になったの」
私が二人を離すよう仕向けたのだと知っている言い方だった。彼女は続けて言った。
「たぶん、私がキセに力を与えちゃったんです。やっぱり、あの絵は描くべきじゃありませんでした。顔を与えてしまったから」
他に聞いている人はいない。私は躊躇いながら、尋ねてみた。
「ねえ。キセって、何者なの?」
彼女は少し考えて、こう答えた。
「奏音ちゃんにとっては、自分のファンタジーから出てきた、妖精みたいな存在。設定としては、天上界の孤児で、安住の地を求めて放浪の旅をしている、というお話だったみたいです。それがある時姿を現して、毎晩彼女と遊ぶようになった」
「……あなたから見ると?」
「時空を超えてさまよう、思念体のようなものでしょうか。誰の心にも宿り得るし、複数の人にまたがって広がっていくこともある。霊ではないと思います」
彼女は淡々と、淀みなく説明した。
「どうすればいいのかしら。二人が一緒にいられて、キセも悪さしないようにするには」
「私を怖がらないで」
私ははたと彼女の顔を見つめた。前髪に隠れてしまった目を見ようとした。
「……怖がらないで、聞いてくれますか。たぶん、奏音ちゃんの中でキセとミラが同化すれば、キセはもう出てこないと思います」
「どういうこと?」
「安定するから」
わからない顔をしている私に、ミラちゃんは悲しげに微笑んだ。
「こういう話をもうしないと約束すれば、また奏音ちゃんと一緒になれるんですか?」
「……安定するなら、先生はあなたたちをまた一緒にしてあげたいと思ってる」
ややあって、彼女は言った。
「先生は、ジェミニの神話を知っていますか。わたしたちは魂の双子なの。どちらも一人ではいられない。共栄できるし、仮に奏音が滅ぶことになれば、わたしも運命を共にする。だから、どうか仲を引き裂かないで」
双子座の神話なら、知っている。けれど私は途中から、ミラちゃんを相手に話しているのか、キセを相手にしているのか、確信が持てなくなっていた。
ちょうど一週間後に先生たちの間で会議があり、そこで今後のことが話し合われるのだと伝えると、彼女は不安げながらわかったと頷き、そして、帰っていった。




