7‐1 本当の理由
奏音とミラを再び引き合わせるため、モモは奔走する。
二人の少女の夢と幻想の物語、完結。
全校児童を帰してからの午後はまさに怒涛の目まぐるしさだった。ありがたいことに先生方の方が例年のことで慣れていて、会場設営など首尾よくやって下さったが、私自身はとてもではないが全体への目配りも行き届かず、自分は二次面接の会場にいて、他はすべて計画通りに運んでいることを祈ることしかできなかった。一次面接から回されてきた幼児さんたちを流れ作業のようにしてたくさん観たが、誰一人として印象に残っていない。
十六時過ぎにようやく職員室に戻るとほとんどの先生方は休憩を取っていて、どうやら大きなトラブルもなく済んだようだった。夏休みにちゃんとできるか不安だと恵にこぼした時に、「まあ、結婚式みたいなもんよ」と笑われたが、結婚式とはこんな感じなのだろうか。私にとって楽しい要素は一つもなかったが、恵くらい肝が据わっていれば、大変は大変でも、大勢を動かすお祭りイベントのようにやってしまえるのかもしれない。
反省のアンケート用紙を机上に配り、先生方にお礼を言って、その日は終わった。
光里先生と佳苗先生が、それぞれ労いの声をかけてくれた。一息ついてから校長室を尋ね、校長にミラちゃんが来られていない件について心配していると伝えたが、校長の反応は
「もうしばらく様子をみよう」
とそっけなく、取り合ってくれなかった。
もしかすると、これを機に学校側の大本命である小児精神科や適応指導教室へミラちゃんを連れて行くよう親の説得にかかろうという思惑なのかもしれないと、校長の態度から感じた。保健室ではみきれず、より多くの大人の目のある職員室には来られない現状を突き付けて、あのお母様に問題意識を持たせ、動かそうというのかもしれない。
一度引き離されたものを元に戻すのは容易ではなかった。かくなる上は私がキセと直接対峙したい気もしたが、あの幻影が再び私の前に現れることはなく、奏音ちゃんは「入れ替わる」どころかそのことを話題にもしなくなった。まるで奏音ちゃんの幻想ではなく、ミラちゃんとキセがセットであったかのように、ミラちゃんが来なくなるとキセは鳴りをひそめてしまったのだ。
健診の翌朝、登校してきた奏音ちゃんが私に尋ねた。
《ミラちゃんはあれから学校に来ていますか?》
私とのやりとりもめっきり少なくなった奏音ちゃんが、登校一番に訊きたいことがそれなのだった。私は後ろめたさを覚えながら、
《ほとんど来られていないみたいだね》
と書いて答えた。すると奏音ちゃんは続けて尋ねた。
《どうして保健室じゃダメになったんですか?》
彼女はその訳を理解しているだろう。だからあえて訊くのだ。七瀬先生は奏音ちゃんにも、ミラちゃん側同様、ミラちゃんには自習よりも職員室で先生たちに教えてもらう方が合っているから、と説明していた。ならば自分も職員室で教わりたいと言い出さないところが彼女だが、それが本当の理由でないことくらい、わかっているだろう。
本当の理由を教えてくれない大人たちに、彼女は不信感を募らせるだけだろう。
とはいえ本当の理由すら、私にはうまく説明できなかった。キセのことでミラちゃんが暴走するからといえば、彼女は自分のせいにされたと思うだろう。彼女自身もおかしくなっているのだといえば、その自覚はなさそうな彼女は傷つくだろう。
結局は答えられない私の目の前で、彼女はボードを引き出しにしまい、うつむいた。




