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Gemini 秘密の親友  作者: せっか
第6週 動き回る影
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6‐4 同じにおいがする


 私まで頭がおかしくなってしまったのだろうか。


 キセらしきものを私も見てしまったことを、当然私は他の誰にも言わなかった。学校にとっての問題はキセではなく、二人を一緒にしておくと良くないということで、既に共有され、手を打たれたのだから。


 ただし、大人たちの講じた措置はうまく機能しなかった。

 突然職員室登校に切り替えると言い渡されたミラちゃんは、翌日さっそく学校を休み、そのまま次の週もお休みが続いた。木曜日の三時間目になってようやく一週間ぶりに現れたが、先生方の前で終始おどおどして震えが止まらず、帰りたがり、給食も食べずに帰ってしまったという。

 保健室に奏音(かのん)ちゃんは来ているかと尋ね、会いたがったという話を副校長から放課後になって聞いて、私も胸が潰れた。私もその日はずっと保健室での対応があり、ミラちゃんとは会えなかった。次の日ミラちゃんは当然のように欠席した。

 奏音ちゃんは一人でもほぼ変わらないペースで保健室登校を続けていたが、ミラちゃんと引き離されたことには心を痛めたようで、私との筆談も少なくなり、目に見えて元気をなくしてしまった。


 三連休が明けた火曜日は、いよいよ就学時健診である。金曜日、私は最後の準備を整えるために遅くまで学校に残っていた。平穏だが後味の悪い一週間だった。部屋の半分、デスクの上だけ蛍光灯をつけた保健室は薄暗い。一通りの作業を終えた私は、今は奏音ちゃんの学習机だけが置いてある窓辺のスペースに目を向けた。


 このままミラちゃんが職員室登校を拒み、不登校の引き籠りに戻ってしまったら、それはそのままにしておいてよいのだろうか。


 連休明けの朝は、(めぐみ)の出産報告で始まった。

 まず職員室の諸連絡の黒板に「髙倉恵先生 ご出産おめでとうございます」と掲示があり、職員朝会で校長から一言「昨日女の子をご出産されました。母子ともに健康とのこと」と発表があった。報告はあっさりとしたものだったが、私には特別な感慨があった。

 恵がお母さんになったのだ、という、月並みだけどしみじみとした深い感慨。


 恵とは、最初の座席が近かった。そうでもなければ親しくなることもなかっただろう。それくらい彼女と私では住んでいる世界が当初から違っていた。

 彼女は部活に打ち込むだけでなく、お洒落に恋愛にと青春を謳歌していた。そんな彼女が私にはいつでも眩しかった。全然タイプの違う、どちらかというとじめじめとした暗い私を、彼女が引き上げてくれたようなものだった。私には他に遊びに誘ってくれる友達もいなかったし、たわいない話をする相手もいなかった。漫画研究部は個人活動なので部員の集まりも交流も特になかったのだ――。


 その日奏音ちゃんは欠席だった。在校生は午前授業で午後はいよいよ健診だというのに、一人で保健室にいると次から次へと色々なことが思い起こされた。


 ――もともと内気で集団に入りにくく、小学五年生の時にいじめられて、私も一時学校に通えなくなったこと。中学は隣の学区に越境し、おとなしくしていたのでいじめられはしなかったが、友達はいなかったこと。

 もうすべて忘れてしまったが、その頃私もやっぱりおまじないやタロット占いが大好きで、随分凝っていたこと。それに実は、私にも「特別な力」があると信じていた時期があった。思春期で勘がよく働くのか、簡単な未来予知ができたし、デジャヴも多かった。


 その「力」は、ある日突然消失したのだった。十五歳になる直前に。


 私は自分を守るものがなくなった気がしてひどく心細かった。高校ではまたいじめられるのではないか。そんな不安からすくい上げてくれたのが恵だった。


 なぜ恵が私なんかに話しかけてくれたのかわからない。あまりにも暗いから放っておけなかっただけかもしれない。

 看護師を目指したきっかけも、進路希望調査の時に彼女が養護教諭になると言ったからだった気がする。学校は嫌いだし先生になれる気はしないが、私も誰かの役に立ちたいと思って。


 だが、大学から病棟勤務の時代は私にとって地獄だった。周りはみんな気が強くて、自立心の塊でガツガツしていて、まったくついていけなかった。

 友達もできなくて学生の間に鬱になり、卒業後も自分が薬を飲みながら病院に勤務していた。ごく当たり前の新人教育すら磨り減ったメンタルが受けつけず、たった二年で辞めるに至った――。


 先生は私と同じにおいがすると、いつだったかミラちゃんに言われた。

 それは本当なのだ。先生と生徒だから、「お友達」ではないから、打ち明けるわけにいかないのがもどかしい。

 似ているからこそ、私には見えてしまう。彼女たちがこれから入っていく、長い長い、暗いトンネルの時代が。

 二人とも予後は明るくないだろうと、冷淡にもみている自分がいる。だから本当は、保健室登校でも学校に楽しい思い出ができるなら、私は二人の力になってあげたかった。その思い出は暗闇の中を歩いてゆくための小さな松明の光になるだろうから。


 本当は、二人一緒に保健室がいいのだ。あの最後の日のように、二人が席を並べて仲良く学習している姿がまた見たい。キセの問題さえなければ。



次週「魂の双子」火曜~金曜毎朝7:00投稿

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