6‐3 病気なのか
その日の午後、両管理職、七瀬先生、佳苗先生、光里先生と私だけで話し合いが持たれた。
奏音ちゃんのお母さんはやはり光里先生にもICレコーダーを持参して相談したらしく、光里先生も単なるイマジナリーフレンドというよりは解離の兆候があると心配していた。
会議によって佳苗先生と両管理職も「キセ」という謎を知ることになったが、一度打ち明けてしまうとなぜもっと早くにこの相談をしなかったのかと悔やまれた。そうしていれば事態をここまで深刻化させることもなく、いくつもの事件を未然に防げていたかもしれない。
誰もが二人の異変を重く捉え、心配していた。
「これは一度、引き離そう、二人を。うん、それがいい」
沈黙を破って、校長が言った。
「佐野さんの方には、ミラちゃんには学習の遅れを取り戻すためにより手厚い個別指導が必要だから、という風に説明すればいい。ミラちゃんは明日から職員室。副校長先生と空きの先生方でみていくことにしよう。奏音ちゃんは動かさない方がいいだろうから引き続き保健室で。いいかな、異論は?」
「それがいいと思います。せっかく二人仲良くなれたらって、残念ではありますけど」
七瀬先生が沈んだ声で言った。
「でも、一週間でそんなに急に病気が悪くなることがあるなんて」
「ショックです……」
七瀬先生に続けて、佳苗先生も呟いた。光里先生が口を開いた。
「イマジナリーフレンド自体は、必ずしもすべてが病的なものではないのですけど。現状、特にミラちゃんの状態がよくないので、二人を一緒にしておくのは危険ということですね。校長先生のご判断が正しいと思います」
私がそうしてほしくて先生方に相談したようなものだった。なのにいざ決まってみると、今朝の奏音ちゃんの笑顔が思い起こされて胸がキュッとした。今日一日、二人は仲良く過ごしていた。キセの話をしていたかどうかはわからないが、筆談でのやりとりをしていた。
明日からは別々なのだとこれから両担任がそれぞれの家に電話するだろう。それをお母さんたちの口から知らされたら、二人はどんなにがっかりするだろう……。
私自身は肩の荷が下りて気もちが楽になったはずなのに、そんなことばかりが頭を巡った。この一週間、得体の知れないものを一人で抱えて、それは恐ろしかったのに。
解散して、私は一人うつむきがちに職員室を出た。誰も私を責めはしなかったが、すべては私のせいであるような気がしていた。二人が一緒にいられなくなったのも、奏音ちゃんがおかしくなったのも、ミラちゃんが病だか〈力〉だかを暴走させたのも。
――ふと目を上げて、消灯された廊下の突き当たりを見た私は立ち竦んだ。
薄暗がりの角を、満月のような金色の頭の、赤衣の子どもが、すいっと右へ曲がって行くのが見えた。
私は保健室に戻るところだったが、その前を通り過ぎ、相談室の前も過ぎ、角を曲がった。
夕闇に沈む廊下の右手は児童の昇降口、左側は体育館である。どちらも施錠され、もちろん児童が残っているはずはなく、人の気配はなかった。
けれどたった今、私は見た。私の目にもはっきりと、確かに見えた。




