6‐1 誰と遊んでいたの
次第に生々しくなっていくキセの存在感。
二人の異変も看過できないものになり、モモはついにスクールカウンセラーへの相談を決意する。
「ミラちゃん。何してるの?」
後ろから声をかけると、彼女は立ち止まり、私を振り向いた。
「お家に帰らなかったの? こんな遅い時間まで外にいたら、危ないよ」
近寄って話しかけるが、彼女は私を見上げたまま黙っている。
「……お家に帰りたくないの? 先生と職員室に戻る?」
それには首を横に振り、彼女はようやく口を開いた。
「キセと遊んでたんだよ」
「――え?」
ギョッとした私の様子に、彼女は無邪気に微笑んだ。
「親友になったら奏音ちゃんの声は返してもいいっていうから」
私は地面に片膝をつき、彼女の手を取って目を合わせた。
「それ、どういうこと?」
「奏音ちゃんはモモ先生と話したいのに声が出ない。それはキセが奏音ちゃんの声を持ってるからなんでしょう?」
「どうしてそれを知ってるの? 奏音ちゃんから聞いたの?」
ミラちゃんは首を振り、私を指さした。
「昨日、奏音ちゃんのお母さんが放課後に学校へ来た。奏音ちゃんがキセと話してる声を録音したのを持って……。今朝来た時、印刷室で、先生の中にその時のイメージがみえたの。頭では別のこと考えてたみたいだけど」
絶句する私に、ミラちゃんは続けて言った。
「先生、キセは、放っておかない方がいい。今朝は奏音ちゃんの口を使って喋ったんでしょう? ミラがなんとかする」
「――いや、ちょっと待って、それは先生たちの仕事だよ? ミラちゃんはとりあえず、お家へ帰ろう? 先生が一緒に、送っていくから」
彼女の家の場所は知らなかったが、ミラちゃんは案外素直に歩き始めた。
「ねえ先生、おとぎ話の魔女ってなぜ登場すると思う?」
私と並んで歩く彼女は少し楽しげだった。
「魔女は悪役だとしても、本当はもっと悪いことを正すために出てくるんだよ。魔法の力は、普通の人にはできないことをするためにあるの。だから私は奏音ちゃんを助けたい」
――日を追うごとに、ひどくなる。
私を最も混乱させていたのは、彼女の前ではその時思い出してもいない記憶までも見透かされてしまうという新事実だった。それでは職務にも支障が出る。キセに至っては、もう何が何だかわからない。
彼女に付き添ってたどり着いたのは、間口の狭い二階建ての二世帯型住宅だった。一階に玄関ドアが二つ並び、表札はなく、それぞれのドアに算用数字で一〇一、二〇一と部屋番号が振ってある。彼女は一階のインターフォンを押した。この構造の住居だと、二階に住んでいるのは親族ではないかもしれない。
出てきた母親は、娘の帰りの遅さを別段心配していた様子もなく、私の顔をちらと見はしたが、何をしていたのかと娘に問いもせずに中に入れ、その後は目も合わさずに、会釈とも取れるような仕草だけして、ただドアを閉めた。
コンビニには立ち寄らずに学校に戻り、校長に一連の出来事を報告した。キセと、彼女の奇妙な能力には触れずに――ミラちゃんがこの時間までランドセルを背負ったまま町を徘徊しており、自宅まで送り届けたが、母親のリアクションもなかったと。
校長は顎に手をやり険しい顔で聞き、
「またカウンセラーさんも交えて委員会に上げた方がいいかもしれないな」
と呟くと、「了解、了解」といつもの調子で応えた。担任の佳苗先生は既に退勤されていたので、報告は翌日になった。職員会議の水曜日、二人は揃って欠席したのだが。




