満月の色の髪、すみれ色の瞳、赤い服
奇跡って、本当に起こるんだ。
ある夜、いつものようにベッドの中で自分だけのお話の続きを考えていたら、窓から突然真っ白な光が射して、その光の中から、淡く光る姿をした子どもが現れた。
満月のような金色の短い髪、夢を見るようなすみれ色の瞳。真っ赤な服。
私はびっくりして、ベッドの上に体を起こした。たった今まで空想していた物語の主人公にあまりにもそっくりだったから。
――キセ。
私は心の中で呼びかけた。物心ついた時から、私はなぜか、お母さんとしか話せなかった。自分で話さなきゃと思ったとしても、怖くて声が出せないんだ。
不思議な子どもは、私の心の声に応えるようににっこりと笑って、言った。
『わたしの親友になってよ、奏音。あなたもひとりぼっちなんでしょう?』
キセが私の前に現れたらって、ずっと思っていた。何度満月に祈ったかわからない。
キセは天上の世界の孤児で、安住の地を探してずっと放浪の旅をしている。――現実の世界で友達を作れない私は、いつの頃からかそんな物語を毎晩寝る前に空想するようになった。
天上界は正義の世界で、悪いことやずるいことをする人はいない。けれど、キセはそのどこから来たのかわからない素性と、不思議な色の瞳のせいで、誰かと親しくなろうとしても、心の底からは受け入れてもらえなかった。
天上界では、金色の髪は天使のものでも、紫の瞳は悪魔のしるしだと信じられていたから……。
私ならキセの親友になれるのにって、お話を作りながら思っていた。
そしてきっと、キセならこんな私を受け容れてくれるのにって。
だから、奇跡が起きたと思った。神様が私の願いを叶えてくれたって。
それからずっと私たちは、お互いにお互いしかいない親友。キセは毎晩窓辺に現れて、私と遊んでくれる。学校になかなか行けないのも気にならなくなった。だって学校は怖い。天上の世界とは真逆の世界だ。私にはキセがいるからもう寂しくない。
モモ先生とミラちゃんに出会うまで、そう思っていた。
初日のため、「第1週 断れない依頼(1-1)」と同時公開しています。
毎週火曜~金曜朝7:00投稿で、7週にわたって連載する予定です。よろしくお願いいたします。