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1−2


「銀色の巨大な(こい)とか、虹色の()。あなたにだけ見えているお友だち」


 ()(かい)さず胡桃坂(くるみざか)が続けるので、面倒(めんどう)に思いながら答える。


「グミの(むれ)とか、見るたびに位置が変わる(かべ)とか? 見えてるし聞こえてますよ。(にお)いも感じる」


「そして、あなたが言えば()ってくる?」「そう」


「あいかわらず?」


「あいかわらず」


「なるほどね」


「信じられない?」


 胡桃沢はそれには答えず、ノートパソコンになにか打ち込むと、曖昧(あいまい)微笑(ほほえ)んだ。

 

 この人は肯定(こうてい)否定(ひてい)もしない。(まゆ)(ひそ)めたりしないし、過剰(かじょう)におだてて可哀想(かわいそう)気狂(きちが)(あつか)いしたりもしない。


 ただ私の話を、妄想(もうそう)幻覚(げんかく)、あるいはイマジナリーフレンドとして聞いている。


「どうしてあなたが願うと寄ってくるのかな?」


「わからない。私に都合のいい幻覚なのかもね」


 胡桃坂は相変(あいか)わらず微笑んでいて、私は今すぐに”都合のいいお友だち”をけしかけてやりたい衝動(しょうどう)()られる。



 数年前から、私は他の人には見えない存在を知覚している。


 それらはそこかしこにいて、各々が意思を持って空間をぶらぶら(ただよ)ったり、街中を奔放(ほんぽう)に移動している。意識を合わせて声をかけると、簡単な指示であれば言うことを聞く、かわいいやつらだ。


 彼らはこの世界の物体に直接(ちょくせつ)干渉(かんしょう)することはできないが、存在自体が人間の無意識に作用するらしく、道におけばそこだけ()けて流れができるし、そばにやって、居心地の悪さや焦り、恐怖心を抱かせることもできる。


 感じ方には本人の資質(ししつ)やコンディションも関係するようだが、混雑(こんざつ)した通りを歩く時にはずいぶん重宝していた。


「ちなみに、今はどう? この部屋の中に何か見える?」


 観察(かんさつ)するような()を見つめ返して、「どうだと思う?」と(たず)ねる。


 私は意識をグミに合わせる。


 グミというのは私のお気に入りの”お友だち”のひとつで、見た目と(にお)いがゼラチン菓子のグミにそっくりな、色とりどりの粒の群だ。


 一粒ずつは小さいものの、大量に固まっていると香りで酔うので、あまり自分の近くに寄らせることはない。


 しかし、空中を漂っている姿はなんとも言えず綺麗で、退屈な時間にはよく呼んでいる。要するに、この面談の初めから、部屋の中をてんでバラバラに飛び回っていた。


 私が命じると、それまで部屋の中を適当(てきとう)に泳いでいた彼らは、素早く方向を変えて胡桃坂を取り(かこ)み、一列になってゆっくりと回り始めた。


 一定間隔でオレンジ色に明滅し、縞柄(しまがら)のうみへびのようだ。


 あたりに柑橘類(かんきつるい)の甘酸っぱい香りが広がる。ように、私は感じる。


 しばらくの間私たちの間に沈黙が続き、根負(こんま)けしたように胡桃坂が口を開く。


「わからないな。もしかして目の前にいたりするのかしら」


 自信なさげに肩をすくめてみせる。


 輪を大きくしたり小さくしたりして頑張っていたグミたちは、「しょんぼりしました」と言わんばかりに、力無くほどけて、元いた中空(ちゅうくう)へ戻っていく。


「ここには何もいない」


 私はしれっと嘘をつく。




 受付で会計を済ませて外へ出ると、廊下に置かれた自動販売機の前に胡桃坂が立っていた。


 視線に気づいた彼女が、笑顔で缶ジュースを挙げてみせる。


「なんだか無性にオレンジジュースが飲みたくって」


 軽く手を振ってクリニックに戻る胡桃坂を見送る私のそばで、グミたちが機嫌良く明滅(めいめつ)を始める。


(◉Θ◉)oO ( お読みいただきありがとうございました!

次回は8/1ごろの更新となります。

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