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世界の概況

 俺は女王がつけていたものと同じ、木製の仮面を渡された。

 見よう見まねでつけると、導かれるままドラゴンの頭に上がる。

 二人がドラゴンの頭の上に乗ると、水晶の女王は握った綱に念を送るかのように力を込めた。

 雷鳴のような轟音が、ドラゴンの体を通して伝わってくる。

 同時にドラゴンの体が浮き上がる。

 頭を空に向けるようにもたげると、二人は頭の上についた背当ての板に押しつけられる。

 ここからでは見えないが、おそらく、ドラゴンは足で地面を掴んでいるのだろう。上昇する力をどこかで止めている。

 女王が綱を引くと、ドラゴンは掴まえていた何かを放し、翼を動かすと一気に上昇した。

 ドラゴンが雲を抜けるまで、雷鳴のような轟音は続いた。

 雲の上に達すると、速度が落ちたように感じた。

 だが、女王の結んだ髪は真後ろになびいたままだ。おそらく近くの景色が見えなくなったために錯覚しているに違いない。

「あなたの立場を説明しておくわ」

 強い風の中でも、その声は聞こえた。

「立場ですか?」

「……」

 女王はドラゴンを操るために、俺の前にいる。

 俺の声は、その風に押し戻されてしまうのだろう。

「一方的に喋るから、話を聞いて」

 女王の指示はもっともだった。

 俺は聞き逃さないよう、耳に意識を集中した。

 彼女の口から語られたのは、この世界の構図だった。

 大まかに地域と種族の話が語られた。

 南側の平地の多い部分を人が支配し、生きている。

 一方、山の多い北側にはオークの国があった。オークはいくつかの国に分かれていたが、次第に力をつけた一国があり、近々オークの国々が統一され、同一種族の大きな国家が誕生する可能性があった。もしオークが一団となって、南下を選択すると人との戦争になる可能性があり、注視している状態だという。

 この世界の種族として、他にエルフとノーム、トロールがいる。

 エルフも当初北側の地に住んでいたが、オークやトロールの文化や臭気に耐えられず、高地に逃げ、それからはオークや人とも交流がない種族となってしまった。

 彼らは高地で独立した国家を持っている。

 トロールは巨人で、やはり北側に住んでいるが、個人主義であり、国のような統治を行わないため、実態が把握しきれていない。

 実態がわかりにくいのは、その大きさから天敵がなく、彼らのライフサイクルは人やオークのそれとは違い、永井年月をかけ、ゆっくりと進んでいる為らしい。

 ノームは人の指ほどの大きさの種族で、南側の世界に住み、人と共存・共栄している。

 彼らノームも国のような統治がなく、個々の判断で人について生きていた。

「それから、さっきの植物だけど」

 ドラゴンは翼を動かすのをやめ、ブレスを吐いた。

「降下するから気をつけて」

 俺は訊ねた。

「植物がどうしたんですか?」

 速度が落ちたのか、声が届いたらしかった。

「植物の話ね? さっき刺された、棘のある植物が、『バカオナモミ』で、空に向いて生えていた大きな豆は、ドラゴンの主食の一つで『スイカ(まめ)』というの。バカオナモミはドラゴンのこの硬い肌に刺さることがあって、人間がとってあげるのよ」

 ドラゴンは口の左右の端から、ブレスを吐いた。

 雲の下に抜けると、視界に街が見えてきた。

「あれがリムの街」

 石や樹木で作られた建物が、その一帯にまとまって立っている。

 大きな街だった。

「私も、あなたも転生者よ。世界は、転生者とそうでない者がいる。我々転生者には特別な能力があるから、後でそれを教えるわ」

「……あの、俺『なろう』とか詳しくなくて」

 聞こえないのか、聞こえたのに着陸間際で無視されたのか。

 その言葉に返事がないままドラゴンが着陸した。

 ドラゴンが降りた場所は、リムの街のはずれだった。

 そこから先は、用意してあった馬で移動した。

 鞍で尻が腫れ上がる前に、城についた。

 俺は女王の従者が用意した金と衣服を受け取り、城から出た。

『アラタ、いい? あなたと同じ転生者であるその()を探して。その()が見つかったら、私の元に連れてきて』

 俺はなぜ自分で探さないのか、あるいは他の適任者がいないのか、と訊ねた。

『転生者は相手が転生者だ、と判断することが容易だからよ。それ以上は言わせないで』

 女王が、転生者であるその()を探すことは機密事項なのだ、と俺は勝手に解釈した。

『それと転生者はコードが見えるはずよ。一時的なら書き換えることも可能。一人一人の能力差はあるにせよ、ね。もしその能力を開発しようという気があるならソウタに鍛えてもらうといいわ』

 その()以外に『ソウタ』と言う転生者を教えてもらった。

 だが、この世界に写真がある訳ではなく、詳しく聞く時間もなかった。

 俺はもう一つ、知りたいことがあった。

『ああ、なぜあの場に私がいたか? たまたまあそこでドラゴンに食事をさせていた時に、あなたの転生を実施したからと言うことね。転生場所は転生を実行した私がコントロールできるのよ。ただ、たまにコントロールを失ってしまう場合もあるけれど……』

 俺は運が良かったと言われた。

 確かに、俺は、『承認』を無意識で押していた。

 しかも、転生先のコントロールも上手くいっている。

 だからすぐに女王に会うことができ、しっかりこの世界で生きる為の金と衣服を受け取ることができたのだ。

 そもそも『承認』しなかったり、転生先のコントロールに失敗するとか、そういったトラブルも多いそうだ。第一段階として、承認がなければ転生は行われない。だが、俺を含めて、死ぬとわかっているから転生する道を示している訳であり、承認したから死ぬ、拒否したら生き残る、というわけではない。どちらを選択しても、その世界の中では命が終わってしまうのだ。

 そして、承認をする、という段階クリアしても、今度は転生した先がオークの世界や、海のど真ん中だったら……

『転生先のコントロールだって、全力は尽くしているわ。けれど、どうにもならないことはあるの』

 女王は、それ以上は語らなかった。

 俺は教えてもらった場所についた。

 そこはレンガで作った建築物だった。

 一階に住むお婆さんに、この念書を見せれば、建物の上にある部屋を貸してくれるらしい。

 俺は一階の扉を叩いた。




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