表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2話 大事な友達

 陽楠市は緑に囲まれた地方都市だ。市庁のある中心地はそれなりに開けているが、そこから離れれば離れるほど辺鄙な田舎めいてくる。

 住宅地の多くは、もちろん平野に作られているが、小高い山を切り開いて家屋を並べたような場所も少なくはなく、高低差は至るところにあった。

 杉田の暮らす森山三丁目は、とくにのどかな場所で、家屋は山の裾をなぞるように横並びになっている。

 ポチが住処にしているのは、そこからさらに山側に進んだ場所とのことだった。

 案内役の杉田に先導されながら、地球防衛部の三人は鬱蒼とした林の小道を進んでいく。

 道は荒れていたが、歩きにくいというほどでもなく、それなりに人の出入りはあるようだ。


「この山にはカブトムシとかでっかいクワガタが居て、ガキの頃から俺の遊び場だったんだ」


 杉田は当時に思いを馳せるかのよううに、どこか遠い目で語る。


「初めてポチに会ったのも、その頃だった。あの頃の俺は学校でいじめられていて、放課後になると逃げ込むように、この山へと入っていったんだ」

「つまり、この辺はお前にとっちゃ庭みたいなものってことだな」

「そうだな。ガキの頃はいろいろ持ち込んで秘密基地にしていたよ」

「秘密基地!」


 鉄奈が目を輝かせる。どうやらこの娘は、この手のワードが好みのようだ。だから柳崎とも気が合うんだろう。杉田はそう考えたが、鉄奈はそれでいいとして、姉のほうはどうして、こんな部に入ったのだろうか? それを疑問に思う。

 美剣鋼は杉田や柳崎と同じ二年生。学校でも群を抜いて小柄な少女で、ほとんど小学生にしか見えない背丈だ。ランドセルに縦笛とかが、すごく似合いそうである。

 失礼だとは思うが、横目で見たところ胸もあまりなさそうだ。腰がくびれているようなので、いわゆる幼女体型ではなさそうだが、彼女を相手にこういうことを考えるのは、やはり余計な背徳感を感じてしまう。

 ただし、鋼の表情は同世代の女子に比べると、その見た目に反して大人びて見える。実際、テストの成績も良いし、聡明なことは疑いない。

 一方、妹の美剣鉄奈は言うまでもなくピカピカの高校一年生だ。こちらも小柄だったが、中学生程度には見える。顔立ちは鋼とよく似た美人で、姉と違ってスタイルもいい。

 ただし、そこに浮かんでいる表情は姉とは対照的に実に子供っぽい。それは裏を返せば純真ということなのだろう。無垢な瞳を杉田に向けると明るい笑みを浮かべて訊いてくる。


「ポチとあなたは友達だったの?」

「友達か……。そうだな。少なくとも俺にとってはポチは大事な友達だった」


 歩みを止めることなく杉田は続ける。足下には落ち葉が堆積しており、一同の足音を規則正しく響かせていた。


「初めて会ったのは十二月に近い寒い日だった。俺はコロコロに厚着していたからまだよかったが、あいつは寒さに震えていたよ」


 過去を懐かしむように語る。杉田の脳裏には、その頃の情景が映し出されていた。


「最初はコートをかけてやろうかと思ったんだが、近づこうとすると嫌がるから、とりあえず俺は自分が持っていたパンをやることにしたんだ」

「なるほど、餌付けだね」

「いや、そんな発想はなかったけどな」


 鉄奈の言葉に苦笑するが、行動を見ればそれ以外の何ものでもない。内心で認めつつ続ける。


「とにかくポチの奴は食べ物にはすぐに食いついてな。それからだよ。俺が毎日エサを持って行くと、名前を呼ぶまでもなく林の奥から顔を覗かせるようになったんだ」

「なるほどねー。動物とはあんまりつき合いがないから、今ひとつピンと来ないけど、仲が良さそうな感じは伝わってくるよ」

「ペットを飼ったことはないのか?」

「残念ながら。ワンちゃんはかわいいと思うんだけどね」

「そうだな、犬はいいぞ。最初に飼うなら、まず犬がオススメだ」


 杉田が鉄奈に勧めると、後ろから柳崎が口を挟んでくる。


「ペットなんざわざわざ飼わなくても、今から捕まえに行くところだろ」

「柳崎、お前まさかポチを飼うつもりなのか?」


 驚く杉田だったが、柳崎はさも当然と言った顔をする。


「他にどうすると思ったんだ? お前だってまさか友達を退治されたくはないだろ?」

「それはそうだが、あいつは牛だって噛み殺すような猛獣だぞ」

「鎖に繋いでおけば、とりあえず被害は出なくなるさ。あとはそれから、餌付けするなり拳で語り合うなりして、ゆっくり仲良くなっていけばいい」

「餌付けはともかく拳で語り合うのは無理かと……」


 鋼のツッコミはもっともだったが、柳崎はとくに気にしない。


「幸い部室棟の横に動物を飼うのに適した広場があるから、そこを使わせてもらおうと思う。もちろん、そのままだと近づく奴が居るかもしれねえから、適当に柵でも作っておけばそれで良かろう」

「そりゃあ、俺だってポチとは別れたくないが、許可が下りるだろうか?」

「まあ、まずは捕まえるのが先決だがな」


 そう言って柳崎はどこから持ってきたのか、金色の虫取り網を高々と掲げて見せた。


「いや、虫じゃねえし……」

「ふふん。まあ、見てろって」


 いったい何を考えているのか、杉田のツッコミにも動じず、柳崎は不敵な笑みを浮かべるだけだった。

次回予告

『人の立ち入る事なき秘境にて

 ついに、その姿を現したポチ

 変わり果てた友人を前にして

 杉田が悲痛な叫びをあげる

 はたしてサルコスクスの秘密とは!』


鉄「ツッコミどころが多すぎて

  かえってツッコむところに悩むよね」

鋼「確かに普段は人は立ち入りませんが

  田舎の山奥ってだけですからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ