世界は
消滅の音が聞こえる。
サラサラ、サラサラとまるで砂がこぼれるような音をたてながら世界は今日も消えていく。
空を見上げた。太陽が近い。昔はもっと離れてたって聞くけど今じゃ確認するすべもありゃしない。いつかはこの星とぶつかって全部消えちまうんだろうか。それともその前にこの星が消えてなくなるのが先なのだろうか。
謎の病原体蔓延るこの星の最後は一体どうなるのだろうか。その時俺は何をしているだろうか。もう消えているだろうか。何も残らずピア粒子として空に登り消えるのだろうか。腹を空かして飢え死ぬか。永寿を全うするなんて考えはない。きっとその前におっちんで終いだ。長生きなんてするもんじゃない。爺さんがいってた。俺もそう思う。
長生きするつもりはない。ただ今すぐ消えるのとは違う気がする。俺は何をしたいんだろうか。考えてみる。
消えたい訳じゃない。
でも、
どうしても生きたい訳じゃない。
ただ、何もないここで消えるのは詰まらない。何もない俺が消えるのも詰まらない。そう思った。
「ノン」
隣に腰掛け、消え行く世界を眺める隣人の名を呼ぶ。
「ナんだよ」
鬱陶しげにこちらを見る目に俺と同じ影を見た。焦げ茶の瞳と黒い髪は、かつて日本と呼ばれた国の色合い。今や海に沈んで消えちまったらしい。それもまた昔の話だ。
「俺たちここで消えんのかな」
隣を見ずに崩落した町を眺める。ピア粒子混じりの風が屋根の無い小屋を撫で消滅の後押しをする。まぁ、ピア粒子が物を消滅させるのではなく、消滅したなれの果てがピア粒子な訳だが。
「遠くにいきたい」
俺から視線をはずし町のその向こうを見るように目を細めた隣人の呟きが聞こえた。俺は町から隣人に目線をずらす。
遠くに、か。
「いいね」
隣人は俺の目を見た。焦げ茶の瞳はガラス玉みたいにつるりとして何の感情も読み取れない。
「遠くにいこう。ずっとずっと遠く。こんな何もない町じゃなくて、ただ消えるんじゃなくて」
隣人に手を差し出す。共に行こう、全然知らない、未知の場所へ。そうすればこの退屈も少しはましになるかもしれない。自分の生をもっとずっと素晴らしく思えるかもしれない。
「なぁ、ノン。いこうぜ、遠くに!」
まばたきを一度した隣人は、口の端を吊り上げ楽しげに焦茶の目の奥を揺らした。そして、
「イイね」
俺の手をとった。