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ニニギ

「りぃだぁぁ!」

 マオがリーダー(彼女の言い方だとなぜか弱そうに感じるが)と呼ぶ男、即ちバルバイの主導者であり、かつて白銀の巨竜を討伐した勇者の血を引く者だ。まだ30代かという若さで、既に悟りを開いた賢者のような澄んだ瞳をたたえていた。服装は普通だった。

「初めまして、ソウナギ君。私はニニギ。ご存じの通り勇者の末裔だ」

「あなたが……」

 伝説に伝わる勇者の末裔。いわば、リュウジュの天敵だ。

「マオから聞かされた通り、我々はリュウジュに復讐するべく結集した。だが、同時に我々は、リュウジュに虐げられてきた人たちの自由を解放するための組織でもある。我々の目的のために君の意にそぐわない思いをさせるのは、我々の信条に反している。リュウジュへの復讐より大切なことがあると言い切れるのなら、我々がそれを否定できる権利はどこにもない」

「でも、それじゃあみゃあたちの夢は叶わないみゃ」

「元より、龍警団になすすべのなかった我々の力不足が招いた事態だ。ソウナギ君一人に負担を背負わせるわけにはいかない」

「でも、それなら……みゃあのおとんとおかあは……みゃあを守って殺されたみんなの思いはどうなるんだみゃ……!」

「その時は、この少女の心に我々が敗北したというだけのことだ」

「りぃだぁ……」

「……」

 ソウナギは自分の母も龍警団に殺されたことを思い出した。

「さて、ソウナギ君。我々は君の意志を尊重するが、できることがあるのなら私は進んで手を貸そう」

 りぃだぁと呼ばれる男はソウナギに手を差し出す。握手を求めている。

「私はウミヒコの小説を出版局に届けたい」

「悪いが我々ではそれは叶えられない」

「じゃあ、いい。他の方法を探す」

ソウナギの心はバルバイの灯では溶かせない。凍てついた彼女の心を氷解するには、温かいベッドとスープが必要だ。

「結構淡泊だね君。しかし、それも歩んできた境遇のせいか……」

「辛いのはこっちも同じみゃんだけどみゃあ……」

「辛い思いをしたからこそ学び得るものもあるだろう」

「物は言いようだみゃ~」

「じゃあ」

 ソウナギは言った。

「母を殺した男に復讐したい」

「……なるほど」

「じゃあ、って感じの内容じゃみゃいけどね……」

「ちなみに、その男というのはどういう――っ!」

 ニニギは遥か遠方から放たれた殺気を感じ取り、マオとソウナギを掴んで後ろに飛び退いた。

 刹那。

 ニニギたちが数舜前まで立っていた大地が破裂した。

 大地を抉るは、白銀の戦斧。あまりの衝撃に公園の遊具がなぎ倒された。

圧倒的な衝撃音と舞い上がる瓦礫片の向こうから、荒い呼吸の音が聞こえる。

リーダーがつぶやく。

「来ると思っていたよ、筆頭龍警団アメノ。バルバイの民を襲った災禍の根源め」

「貴様ら、バルバイだな。政務局の命により、貴様らを殺す」

アメノは自身の巨躯よりさら長大な斧を軽々と振り上げ、背中に戻す。

「なっ、なんでここにいることがわかったみゃ!? 龍警団はまとめて龍駅に戻ったはずみゃあ……?」

 呆気にとられるマオ。

「ナルロス様は貴様の策に気づいていた。現にナルロス様は貴様が淹れた毒入りのコーヒーに気づき、飲むふりをした。貴様がコーヒーを淹れたと駅長から聞きだした。後は……わかるな?」

「あの老人に、そんな脳が……」

 龍警団は、既にバルバイの足取りをつかんでいた。

「あれは中央の政争に勝ち残った老境の士だ。戦うことしかできない私よりはよっぽど手強い」

 ソウナギは気づく。

 あの時自分が見逃されたのは、こうしてバルバイが自分に接触する機会を待っていたからだ。自分は、利用された……。

「やれやれ、そう上手くはいかないもんだな」

 ニニギは、懐から小さなナイフを取り出した。深紅の煌めきが快晴に反射する。

「り、りぃだぁ?」

「マオ、ソウナギを連れて逃げろ。それまでの時間は俺が稼ぐ」

「でも、それみゃあ……」

 言外の含みを察することぐらい、マオにもできる。

「マオ、これは俺がお前に課す最後の任務だ。お前が俺の意志を継げ。かつての先代の意志を俺が継いだように」

「みゃあ……」

「……」

 言葉を失うマオとソウナギ。

 アメノは冷酷な表情を崩さない。

「そんな小さな得物で俺とやりあうつもりか」

「至近距離の戦闘なら武器は小さい方が良い。リュウジュの人間はそんな基本も知らないのか」

「抜かせ」

 一閃、二つの金属が衝突する。

「行け!」

 若い勇者の子孫の怒号に殴られるがままに、マオとソウナギは逃げるしかなかった。

 かつて、伝説の勇者は白銀の巨竜を深紅の宝剣で打ち倒した。今、勇者の末裔が巨竜の懐刀と刃を交える。




――





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