ドキドキの初登校 ⑤
「えっ?! 私?」
教室の背面ロッカー(真四角なハチの巣)の1個が、何か鳴っていて…それは鈴女のリュックだった。
小町さんから「すずめ~ 購買案内するよー」と声を掛けてもらった矢先だったけれど「ごめんね」と謝って廊下に飛び出し、人の流れの逆側へ走り出す。
人の気配が遠ざかるのを確認してリュック開けると、 “鈍色の棒…ウェーブグライダー”が唸り光っている。
「どうしよう!! これ…」
取りあえず頭の中に“鍵”をイメージし、なんらかロックができないか試してみるが…見当違いのイメージしか湧いて来ない。
それにさっきより音も光もどんどん増してきている様だ…
「ヤバいかも…」
とその時、鈴女の頭に声が響いた。
『窓を!!』
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空中へ飛び出した笙悟陰香狩は緩やかな弧を描きながら、次に足を掛ける場所を目で追っていた。
「中庭に人が来た…降りられないな 目当てのウェーブグライダーも移動している…廊下の端へ…」
香狩は両腕をグッと後ろに反らせて弧の軌道の頂点を少し引き延ばし、頭の中で叫んだ。
『窓を開けるんだ!』
その瞬間、弧の下り坂が来て香狩はつま先を下に向ける。
短パン状になっているスカートはその中を見せる事なく、プリーツだけを激しくはためかせた。
。。。
ウェーブグライダーは唸り光っているけれど、頭に響いた声に弾かれて鈴女は目の前のドアに指を掛け開け放つ。
何かザワっとした感覚がして鈴女はリュックを抱えて、その場に縮こまった。
。。。
体育館の屋根の梁をつま先でトン!と蹴って香狩は再び宙に舞う。
目指す窓に人影がしてスパン!と開け放たれた。
「間違いない、あの子が鈴女か」
香狩はザクっ!と蹴りでもするように鋭角に窓の中へと飛び込み、しゃがんでいる鈴女のつむじ辺りを風圧でそよがせた。
鈴女が驚いて風の行方を振り返ると
香狩は…広がり、陽の光きらきら弾いているプラチナブロンドの髪を…翼をたたむようにふんわりと肩へ戻し、ウィンクした。
「私の声、聞こえたね」
鈴女は頷きながらも尋ねる。
「あなたは…一体…」
「その前に!ウェーブグライダーが暴走しかかっている。どうしてこうなった?」
「分からないんです。昨日はちゃんと使えたのに…」
「自分で封印を解いたのか?」そう言いながら香狩は鈴女のウェーブグライダーに手を伸ばしたが、バチン!という閃光ともにその手を弾かれてしまう。
「やはり受付拒否か…」
「あの、たぶん、私がエナジーが無いせいです。昨日、綾ねえさま…叔母に…注ぎ込んでしまったから」
「それもあるのだろうが…正しい手順を踏まなかったからね…やむを得ない。キミのお母さまには申し訳ないが…キミを手込めにしよう」
「ひぇ?!!」
香狩は身を引こうとした鈴女の手首を捕まえて自分の胸にグイっと引き寄せた。
「このままだと校舎の半分くらい軽く吹っ飛んでしまう。それはマズいでしょ? キミ、他人とのキスの経験は?」
物凄く頭を振る鈴女の両頬をガシッと抑え込んで、香狩は有無を言わさずカノジョのくちびるを奪った。
そのキスは、吸われるものなく…与えられるもので…
鈴女の中にエナジーが怒涛の様に流れ込んできて…
しかも“頭の中”を香狩に触られている。
「よしっ捕まえた」
香狩はキスで鈴女を繋いだまま、二本のウェーブグライダーを握り、その腕にカノジョを抱きしめた。
抱きしめられた鈴女は半開きのトロンとした目で、“頭の中”の香狩のささやきを“聴いて”いる。
『魔法種…キミたちの言うところのエナジーをキミに送り込んでいる。そしてウェーブグライダーの基本操作アプリを本体とキミの頭の中にそれぞれインストールした。 キューブが見える?』
トロンとした目のまま鈴女は頷く。
『キューブの上下をつかんで』
“頭の中”のキューブに鈴女が手を掛けると、その上から香狩は手を添え『こうやって上下逆回しすると真ん中に筋目が入って、別々に回るだろ? 次はこうやって…そう、右の親指で押して… これが外部ウェーブのカットスイッチだ。これで外界からの雑多なエナジーの取り込みはカットされた。従って暴走はしない。 その代わりウェーブグライダーは元々貯められた分とキミの体内の魔法種しか使う事は出来ない。 だから私の許可なくウェーブグライダーを使ってはいけないよ。 そうでなければキミはバッテリーのダメになったスマホと同じ様に大変な事になってしまうから』
香狩がそっとくちびるを離すと、触れる相手を無くした鈴女のくちびるは虚しく動き、その体はぐったりと香狩の腕に崩れた。
「大丈夫?」
「はい…いいえ… あの…ドキドキしてます。その…こんなの…受け取るのは…初めてだったし…ファーストキスだったんです」
少し目を潤ませた鈴女の頭を撫でてやりながら香狩はカノジョに謝った。
「やむを得ない事とは言え、申し訳なかったね…」
しかし鈴女は香狩の腕の中で小さく頭を振った。
「違うんです。こんなにも…素敵だったから…」
それを聞いて香狩はクツクツと笑った。
「自己紹介がまだだったね。私の名前は笙悟陰香狩…今は無き“西の魔女”と…笙悟陰家との二つの末裔でもある…何世紀もその命を繋いできた…ある意味“ゾンビ”だ。 だからこういう事もする」
と微かに開いたままの鈴女のくちびるを戯れにスルリと舐めて、カノジョを「ひゃっ!」と言わせた。
今書きなぐってUPいたしました。 香狩さん描けたら明日UPいたします<m(__)m>




