ドキドキの初登校 ③
学園長室のドアをノックすると『どうぞ』と返事があったので、鈴女は中に入った。
「学園長の真野です」
そう言って立ち上がった学園長先生は白衣をまとった腰まである長い髪の美しい女性だった。
「らしくないだろう? 実は学園長に就任したのはこの春からでね。学園長室のこの大仰な机と椅子にも慣れていないのさ」
「あの、理科の先生だったんですか?」
「そうだね…高校教諭の…理科と地理歴史と公民の免許を持っている。 君のいた“あすなろの郷高校”では世界史を教えていたよ…この白衣は…君を出迎える為に研究室からそのまま来ちゃったからだよ」
「研究?ですか?」
「そう、私の本来の専攻は“魔女学”なんだ。あすなろの郷に居たのも、元々は研究の為だったが…“校長先生”とご縁ができてね。教育者としても研究者としても充実した日々を過ごさせてもらった… そうそうまだ幼い君の“初飛行”も見たよ。 君は…もちろんまだ高くは飛べなかったけれど…びっくりするほど美しいフォームで空へと浮かび上がっていった。それがまるで昨日の事のようだよ…その君を、この学園に迎える事ができて本当に嬉しい」
そう言って彼女は鈴女に握手を求めた。
鈴女は学園長先生の手に指を置くようにふんわり触れてから、きゅっ!と握った。
「学園長先生の手、とっても温かです。んっと!…幸せが見えます」
「ほう! なるほど! 君は占いができる魔女の事は知っているかい?」
「いえ…良くは知りません…私たちの…槻水の血筋には居ないので…私が聞いたのは、昔、『西の魔女』がたくさん居た時代には占い学というものが栄えていたって事くらいで…」
「そう、占い学は西の魔女が居ればこそのものだった…“西の世界の大厄”ですべては失われた…と私達も思っていたんだけどね」
「でも“奇跡の魔女”がいらっしゃるのでしょ?私、両親から聞きました。」
鈴女の言葉に学園長は微笑んだ。
「君はこの学校で、きっと色々な事を学べるよ。毎日を…」
と言い掛けた時、鈴女のお腹が「クウ」となって鈴女は耳まで真っ赤になった。
「ごめんなさい。今朝は電車で押しつぶされそうになったり、色々あってお腹が空いてしまったんです。今、学園長先生からほのかに美味しそうな匂いがして…それで…」
「君はその電車の中で危機回避の魔法を使ったの?」
「へっ?! いえ、使っていません。魔法は使わないようにと言われているし、魔法を使うべき事ではありませんし…」
「ハハハハ」
弾かれたように笑いながら学園長先生は言葉を継ぐ。
「君は初飛行の時から変わらず、ずっと美しいね。君の事、笙悟陰もきっと気に入ると思う」
「ショウゴイン…さん?」
「“奇跡の魔女”の名前だよ。今日は来てるんじゃないかな?“君が今日から”って事も言って置いたから」
「あの!ショウゴインさんって、どんな方なんでしょう?」
「それは逢ってからのお楽しみにした方が良いだろう、それより私から美味しそうな匂いがすると言うのが気になるな」
「匂いですか?…懐かしい感じなんです。そう、おばあちゃまが良く作ってくれた…飴色玉ねぎがいっぱいのチャツネを使ったカレーの匂い!」
その時、ドアがノックされ
「坂井、参りました」と声がした。
「ああ、入ってくれ。ちょうど茅野さんも来ている」
入ってきたのは優しい笑顔で可愛く、しかも色香の漂う…そう、新婚のお嫁さんみたいな感じの人だ。
「こちら、君の担任の坂井明美先生。坂井先生は魔女学で…私の助手をやってもらっている。料理も得意でね… で、坂井先生。今朝いただいたカレーのレシピはどなたに教わったんだっけ?」
坂井先生はその言葉にはにかみながらも鈴女の方を見た。
「『槻水』の…あなたのおばあ様から教わりました。『うちの孫も大好きなの』って。あなたも大きくなられましたね」
坂井先生の右肩にそっと手をお載せるになる学園長先生…その二人を包む柔らかなオーラが鈴女には見えた。
。。。。。。
イラストです。
鈴女ちゃん案 ⑤
(彩色しました)
今回は短めです。
次回あたりで香狩さんを出したいのですが…
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