プロローグ <魔女の“業”と出発前夜>
気が付けば…とても長いプロローグ。しかもSFしてる!!(^^;)
あすなろの郷 匠工房では確かに最高級ブランドの腕時計を制作していた。しかし、研究棟では、まったく違うもの……超微細な医療用ロボットの研究開発が行われていた。人体の中をまるで生き物のように活動し体の内部から治療を行う夢のロボット。その最小のものは静脈の中を通る事ができるはず……
“彼”が『ろくすっぽ時計を作っていない』というのは事実で、このプロジェクトの責任者だったからだ。そしてできるはず……と言ったのは、それが実用化には至っていないからだ。
というのは表向きの事……
彼は“槻水”の者では無く、普通の人だった。
一女の大伯父である現社長にその力量を惚れこまれ、スカウトされた。
社長は公私を問わず彼と親しく付き合い、やがて、その中で出会った姪の一女と恋仲になり結婚、鈴女が産まれた。
一女にプロポーズした時、初めてカノジョから“槻水”の者の秘密を打ち明けられた。
その内容に彼はいたく感銘を受けたのだが……
その時、彼は、“槻水”の者が連綿と受け継いでいる『この世の物』では無い“技術力”と『トリニティウム』の存在を知った。
その“技術力”と『トリニティウム』を使えば、先の医療用ロボットを作るのは造作もない事だったが…… 彼らプロジェクトチーム(彼以外はすべて“槻水”の者なのだが)の悩みの種は、技術を逆行させ、この世にある物質と常に危険な方向に転びかねない人間の“品性の危うさ”に摺り寄せて、医療用ロボットを作らなければいけないという事だった。
そんな彼らが、その技術の粋を尽くして作り出した物…… それがあの紙袋の中身だ。
彼はこれからそれを自分の娘……鈴女にはなむけとして贈ろうとしていた……
だがその前に、もう少し“槻水”の者について説明しよう。
はるか昔……“槻水”の者の祖先はこの星に降り立った“クリーチャー”だった。
この星で生息する為に必要な二つの物……肉体とエナジーを、彼らはこの星に既にはびこっていたヒトという種族を捕らえ、食む事によって得ていた。
ヒトの肉体は彼らのボディサイズに適していたし……そのエナジー……それは彼ら“クリーチャー”の必須要素である『トリニティウム』を生み育むものなのだが……は“ヒト”が彼らに捕食され、こと切れる間際まで放出させられる死への抵抗の“エナジー”をクリーチャーは貪り尽くした。
ヒトを捕らえ、冷徹に、しかもなるだけ残忍に食い殺す彼らに躊躇いは全く無く、まさしく悪魔そのものだった。
この星よりずっと劣悪な環境下で進化を遂げて来た彼らは、その進化のスピードもこの星の生物達を遥かに凌いだ。
彼らはすぐに、ヒトに擬態する術を身につけ、ヒトが育んで来た技術もあっさりと身に付けてしまった。
全てはヒト狩りを効率的に行う為のモノだったはずなのに……
あろうことか、ある個体が
ヒトの“心”までもその身に取り込んでしまった。
それも悲しい……“愛”という感情を……
カレ(その個体が身に付ける為に食したのが男だったので)は自分の食した男と“つがい”だった女を愛してしまったのだ。
そうなってしまっては、もうヒトを食す事は出来なくなって、カレはこのまま自らを抹殺しようとした。
自死によって遠のく意識の中……カレは“もう一人の自分”を愛し、そしてこの自分を恨み憎む女を見た。
「アンタを死なせはしない。生きて地獄を見ろ!! 」
女は自分の頸動脈を小刀で切り、その血とエナジーをオトコの口に流し込んだ。
次にカレが目覚めたとき……
カレはカノジョになっていた。
それがヒトを殺した最後。
その代わりにカノジョは同類のクリーチャーを殺し続けた。
両方の種族の血で両手を染め続けたカノジョだったが……
ひとりの子供……
そう、子供を産んだのだ。
その子は……子孫を残すとすぐに死んでしまう儚い命だったけれど……
とても素晴らしいものを後世に遺した。
愛する事によって『トリニティウム』を生み育める能力を
それが“魔女”の礎になった。
魔女は『トリニティウム』の力によって様々な奇跡起こす事ができたが、その能力ゆえに短命だった。
“愛”が魔女を支える力でさり、ヒトの愛は永遠では無く、ややもすると儚いものだったからだ。
しかしながら魔女の長い歴史の中で……愛する者たちに守られれば守られるほど、魔女はその力を愛する者たちの為に行使できた。
こうやって人と魔女が支えあって生きていける場所。
魔女が……いつかは完全に同化して人になりたいと願える場所。
それが“あすなろの郷”だ。
◇◇◇◇◇◇
「お父さん、これは?」
鈴女に手渡された鈍色の金属っぽい棒は、その見た目より遥かに軽かった。
「これは“ウェーブグライダー”と言って……これからの鈴女と綾女ちゃんを守ってくれるものだよ。これ、ただの棒に見えるけど……実は『トリニティウム』を核に持つ『セル』の集まりなんだ。」
「私と綾姉さまを守ってくれるって? 」
「まずは、この中に、今の鈴女とお母さんのエナジーをしっかり貯めておくんだ。そこから先の使い方は……『西の魔女』から教えてもらいなさい。」
「『西の魔女』って?……あの奇跡の魔女のこと? 」
「そう」と一女は鈴女の肩に手を置いて、話に加わった。
「あなたのことは……お父さんから“彼女”へ頼んでもらっています」
「大丈夫、“ウェーブグライダー”を身に付けて居ればすぐに会えるよ……とにかく今日これが間に合って良かった。さ! お母さんと一緒に手を置いてエナジーを……」そう言いながらも彼はあくびをかみ殺して眠そうだ。
「お父さん。本当にありがとう! この準備のために寝不足になってる? 」
「―ん。どうかな、宴のワインを俺一人で飲んじゃったからかな」
“ウェーブグライダー”に手を触れると、冷たかったそれが……ほんのり温かくなって来る。
「頭の中にイメージを置いて……『鍵』を開けるんだ」
イメージの鍵と鍵穴がぴったりと合って、頭の中に鍵が開いた手ごたえを感じた途端に、ものすごい勢いで体の中の力が吸い込まれていくのを感じる。
溺れて水の中にドンドン引き込まれるみたい。見ると、お母さんも肩で息をして、“ウェーブグライダー”だけが白い輝きを帯びている。
「ロックしろ! 」
その声に我に返って、鈴女は頭の中の鍵を閉める。
“ウェーブグライダー”は、鈍色の棒に戻っていて、鈴女と一女はぐったりとソファーに身を預けた。
彼はそんな二人をいたわり声を掛ける。
「今日はみんな早めに寝た方がいいな」
◇◇◇◇◇◇
「鈴女とふたりだけで話したくて、お父さんに少しだけ細工したの」
鈴女にマグカップのココアを手渡しながら一女はウィンクする。
「あなたにキチンと綾女のことをお願いしたくて……」
「綾姉さま……そんなに具合が悪いの? 」
一女は頷き言葉を継ぐ。
「鈴女も……私達、魔女にとって“愛”が必要不可欠なものってことは知っているよね」
「うん」
「では、実は……綾女も魔女だったって事は? 」
鈴女は驚いて頭を振った。
「そうよね。私も……そして綾女自身も……知らなかった。気がつかなかったのよ! 私や鈴女の様に“物理的な”力を発現するわけではなかったから…… 綾女の力は……周りの人々に癒しを与えるものだったの。それが証拠に彼女が始めたお弁当屋さんのお弁当を食べた人々は皆、癒されている」
「でもそれだけじゃ……」
「そう、きっと気が付かなかった!綾女はずっと辛い恋をしていて……元いた会社の上司だった人……妻帯者だったのだけど、ようやく奥様と離婚が成立しそうになった時、奥様が身ごもっていることがわかったの。 あの子言ってたわ『こんなにも命が抜けて行くなんて……私もやっぱり魔女だったのよ……私もお姉さまやお母さまに憧れて……魔女になりたかったのだけど……願いは叶えられていたことをこんな形で知るとは』って」
「綾姉さま……どうなさったの? 」
「あの子は……そのカレに、奥様と寄りを戻してってお願いしたの。愛がなければ生きていけないのは、何も魔女だけではない。“人”だってそう! カレの奥様も……生きる為に愛のカタチを欲したんだって! 綾女はそう思っている。そして自分の命は……すべて周りへの癒しに変えて…緩やかに消え去ろうと……」
こう言って一女は指で涙を押さえてカプセルの詰まった瓶詰を出して来た。
「このカプセルの中には癒しの成分の他に『トリニティウム』が入っているの。このカプセルを毎日必ず綾女に飲ませて」
「お母さん!『トリニティウム』って、そのままではすぐに壊れてしまうはず! 」
一女は少し悲し気に微笑む。
「これは私が継承した『トリニティウム』の維持方法。そして“西の魔女”は遥かに凄い方法を持っていて……だからこそお父さんは“彼女”に夢中なの……でもそのおかげで、あなたや綾女が健やかでいられるのなら、それがなにより」
「お母さん! 私、絶対、綾姉さまをお守りするから!! だから心配しないで!! 」
一女は鈴女を抱きしめてキスをし、ガラスのシリンダーの付いたペンダントをその首に掛けた。
「このシリンダーの中にもカプセルを入れてあるか………あなたに何かあった時には封印が解けるように魔法をかけてあるの。封印が解けた時には必ずこれを飲みなさい! 」
そう言って一女は強く強く鈴女を抱きしめた。
。。。。。。
イラストです。
鈴女ちゃん案 ②
眠たいなあ~って感じです(*^。^*)
予告の挿絵
“西の魔女”こと笙悟陰 香狩 案 ①
今回の香狩さんはプラチナブロンドにエメラルドの瞳です(うまく塗れなかったけど)(^^;)
次回からやっとお話が始められるかな…
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