PRACTICE ②
本当に俄かには信じられない事だったが、鈴女は結界に関する香狩の記憶の全てを見た。
その大半は、人や獣や物が焼かれる有様で……その焼かれたニオイまでが押し寄せて来て鈴女は嘔吐と激しいめまいに襲われ、膝が崩れた。
そんな鈴女を香狩はしっかりと抱いた。
「いきなりで……ごめんなさいね」
「いえ……ちょっと、かなり……びっくりしました。それでも……今はだいぶいいです」
実際、鈴女は香狩に抱かれて急速に回復している自分を感じていた。
『ひょっとしてセンパイは綾姉様の様な癒しの魔法も使えるのかしら?』
こうも考えたが不躾に聞く事もできず少しだけ甘えてみる。
「センパイにこうしていただけると、とても落ち着きますから」
「それはきっと……私の年の功だわね」オバサンっぽい喋り方に自分でクツクツ笑いながら香狩は言葉を継ぐ。
「心優しい鈴女をとても驚かせてしまったのだけど……結界とはこの様に“血塗られた”歴史があるのだよ」
その言葉は鈴女の目に悲しみの影が差す。
「それは……人との争いですか?」
「人だけでない。私にも……今、鈴女が垣間見た様に長く生きた歴史があるが……この私が生まれるもっと以前に袂を分かった一族が西の世界にはあってね。彼女達とは今現在も闘っている!」
「そんな話!私は聞いた事が無いです! 魔女同士が闘うなんて!!一体なぜです?!」
「それは彼女達が魔力でもってこの世を……人を操ろうとしているからだ!そんな事は絶対に看過できない!! しかしこれは“西の世界”の末裔である私が負うべき責任だ!“東の世界”の君達を巻き込む事はしたくはなかった! でも、“槻水の姫”として鈴女には知っておいて欲しい。その為に敢えて、私は私の知り得る結界の総てを鈴女に伝えたんだ。係る理由で……結界は武器だと言う事が分かったね」
香狩の腕の中で鈴女は頷く。
香狩は鈴女の両肩に手を滑らせて、そっと鈴女を離した。
「もう練習に取り掛かれるかな?」
「ハイ!」
「では始めよう!」




