PRACTICE ①
「では珠子センセイ。屋上をお借りしますね。 ただ、今日は結界を張りますから双眼鏡でご覧いただいたとしても練習風景を見る事は出来ないと思います。ご研究に貢献できず、申し訳ございません。」
学園長先生への電話を切った香狩は、スマホにミニ三脚を取り付けベンチの上に据え置く。
『何をするのだろう?』と興味深々で覗き込む鈴女に軽く頷き、香狩は襟を正して見せる。
「鈴女! 一つ聴いて置きたいのだが……」
「ハイ!」と鈴女も背筋を伸ばして座り直す。
「キミは“魔法”についてどう考えている?」
鈴女は一瞬考えてから香狩に深々と頭を下げる。
「ご指導いただくセンパイには本当に申し訳ないのですが、私はずっと……魔法に対して不真面目でした。 『こんな力、ヘタに持っていても広く使えるものではないし、その制約の多さも煩わしい』って!」
「煩わしい?」
「ハイ! 『この力こそが私達を社会から隔絶させている』と考えていましたから……だから、“魔法を持たない”綾姉様の事を羨ましく思っていました。」
「“確かにキミの叔母の槻水綾女さんは魔女登録をなされていないようだね」
鈴女は頷いて言葉を続ける。
「綾姉様は普通の人間として、ずっと生きて来た人です。そんな綾姉様に私はいつも虹色のオーラを見ていました。そう……物心ついた頃から。」
「キミは人の心の有り様をオーラとして見る事ができるのだね。」
「ハイ!綾姉様はいつも素敵でした。私の親戚には……凄い魔法が使える方がたくさんいらっしゃいますけど……人として一番好きで尊敬できるのは綾姉様です!」
「なるほど、“槻水の者達”がキミを姫に選んだ理由が分かったよ」
「えっ?! 姫?ですか?!」
「そう! 槻水を代表する者としてキミは私の元に遣わされたんだ。キミが大切に思う“綾姉様”を護る為だけではなくてね。だから気は進まないとしても……しっかりと魔法の勉強をするべきだろうな」
「もちろんです!! この力が皆を護る事に繋がると、今は分かっていますから!心を入れ替えで勉強します!!」
「ハハ!そう肩肘を張らなくても大丈夫だよ! ではまず、結界を張る事を覚えよう! 私も時間の無い身だから、またショートカットさせてもらうよ」
「えっ?!ひょっとして……キス……ですか?」
思わず後ずさりする鈴女の腕を掴んで香狩は顔を寄せる。
「私とのキスは嫌かい?」
「えっと、それはその……」ドギマギする鈴女のおでこを香狩は悪戯っぽくツン!と突っつく。
「キミとはもう手を繋ぐだけで充分さ」
香狩が腕を取っていた手を滑らせて、鈴女と指と指を絡めた途端、鈴女の中に膨大な“情報”が流れ込んで来た。
。。。。。。。
イラストです。
笙悟陰香狩さんのラフ案