ドキドキの初登校 ⑧
「ハンバーグ弁当に単品でコロッケとエビフライですね…650円になります…あ!レジ打ち間違えてしまいました。ゴメンナサイ!訂正します。お待たせしてすみません」
「こっちこそ閉店間際で申し訳なかったね。レジ打ちは初めて?」
「あ、はい! 今日が初めてです。私、すずめといいます、店長の姪です。よろしくお願いします。」
「えっ?! 妹さんじゃないの??」
厨房から綾女がお客に声掛けをする。
「姉の子供なの…一応言っておきますけど、姉は早くに結婚したので…私にも高校生の姪が居るわけです、私は美魔女ではございません」言いながら綾女は吹き出してみせた。
「ハハハハ、店長みたいな可愛い魔女がいるわけないじゃないですか」
「あの、お客様は…」
「あ、こちら常連の加藤さんよ。いつもお仕事頑張ってらっしゃるから、晩ごはんはおうちでゆっくり食べたいって方」
「加藤です。こちらのお弁当にはいつもお世話になってます。で、何かな?」
「あっ! “魔女”って…どんなイメージなのかな?って…」
「魔女ねえ~そうだな、鉤鼻の…腰が曲がってるおばあさんで、グラグラ煮立っている大鍋に何かをパラパラと入れてる感じかなあ」
「ふふふ。童話に出て来そう…でも綾姉さまも…ハンバーグのデミグラスソースの鍋に色々隠し味入れてますよ」
「へえ~そうなんだ。じゃ、オレも店長から魔法に掛けられているんだ」
「さあ…どうでしょう…ハイ!ハンバーグ弁当! いつも通りコロッケとエビフライにもデミグラスソースをたっぷり掛けてありますから、私の魔法にどっぶり浸かって…また明日も来て下さいね」
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「お疲れ様! ようやく落ち着いたわね…じゃ、鈴女の話したがっている事を聞こうかな」
「うん!聞いて!」と鈴女は洗い物をしながら話し始める。
「あのね!『西の魔女』に逢えたの。笙悟陰さんっておっしゃるのだけど…鉤鼻の…腰が曲がってるおばあさんでは全然なくって、JKなの、2年生の…」
「えっ?!!」
「真っ白い肌に眩しいブロンドの髪、瞳はエメラルド色。でね!」と鈴女は自分のスカートを付けているエプロンごと掴んでたくし上げる。
「こ~んな!短いスカートの制服だけど、可愛いの」
「へえ~」
「なんていうんだろう…マンガ?アニメ?の魔法少女を地でやってる感じ!!」
「そうなんだ…」
「すっごく意外でしょ?」
「うん、で、そのJK魔女さんにきちんとご挨拶できた?」
「う~ん…できたのかなあ 最初から助けられちゃったし…そう! 朝はクラスのイケメン男子にも助けられたの! 満員電車から放り出されそうになって!抱きかかえられちゃった!! でも酷いの! “お姫様抱っこ”されたって噂になってクラスの女子達から睨まれた」
「それは大変だったわね…でも、抱きかかえられたのよね?」
「うん、だけどお姫様だっこじゃないもん。宙に浮いてない」
「ん、ああ、そうなんだ…それでもドキドキした?」
「へっ?! ないないない!それどころじゃなかったもん、それに…センパイ…笙悟陰さんにキスされた方がはるかに衝撃だった!!」
「え“っ?! 何か、やらかしたの?」
「はい やらかしました…綾姉さまは経験あるの?」
「“やらかし”の??」
「えへへへ、そうではなくて、その…」
「お姫様抱っこ?」
「…うん、まあ、そうかな…」
綾女は少しほろ苦い微笑みを浮かべた。
「あるわよ。自分自身、普通の女の子だと思っていたし…
だから余計にそう感じたのかもしれないけど…
カレに抱かれてふわりと持ち上げられた時、心も宙へと放たれた気がしたの。
そして思ったの『ああ、人も魔法を使えるんだ』って、
それでね、心が飛び過ぎて行かないようにカレの首に縋ったの…
なーんてね!
今日は色々あって疲れただろうから2階のお風呂にしなさい。銭湯はそのうちのお楽しみね」
鈴女が2階に上がって水音が聞こえてくると…綾女は顔を覆って涙で肩を震わせた。
「鈴女…ごめんね。また直之さんを思い出して泣いてしまって…あなたがお風呂を出るまでには…涙を止めるから…」
綾姉さまの雨模様は、まだしばらく続きます。
次回は章を変えようと思います。
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