ドキドキの初登校 ⑦
軽いため息とともにスマホをスクロールしていた香狩は、ふと親指を止めた。
手慣れた片手扱いで、なにかメッセを入れようとしたカノジョだったが
「ふむ」といった感じで一考すると、電話のアイコンをタップしアドレスを辿って『西嶋瞬』の行を親指で撫でてスマホを耳に当てた。
「もしもし私! 今、スケジュール見ていたんだけど…明日の14時からのコルト社での商談に私の名前が入っているのは、あなたの差し金?」
『ええ』と答える通話の声は男だ。
「コルト社はあなたにお任せしているのだから、社長であるあなたの裁量でやればいいでしょう。例え相手がジェントス商会でも」
『ジェントス様が会長の出席を希望されているのです』
「私は明日も学校に行きたいのよ」
『それは…“槻水の姫”がらみですか?』
「ええ、さっき会えたわ…とってもいい子。だからなるだけカノジョに時間をとってあげたいの」
『ではZ●●mをお使いになるのはいかかでしょう? 背景とお召し物はアプリで加工できますから』
「ジェントスさんだったら…このままのJKの恰好のほうがいいんじゃない?」
『そういった趣向でしたら水着の方がよろしいかと思いますが…』
「アハハ!言うねえ~!」
『はい、私も“男”ですから』
「そうだね、ホントに…あなたはいい男になったよ。」
『すべて…そう、あらゆる意味合いで、笙悟陰様のおかげです』
「そんな悲しい言い方は…しないで。私が巡り合った男の中では…今でもあなたが一番なのだから」
『それならば、尚更! 私はいついかなる時でも笙悟陰様の為に命を賭します!賭させて下さい!』
「いいえ、あなたの命は、私の為にではなく、巡り合うべく定められた人の為にこそ、賭すのです」
『そんな人は…私には、笙悟陰様以外、考えられません。例え笙悟陰様が何かのビジョンをご覧鳴られたとしても、私にはそれを受け入れる事ができません』
その言葉に香狩は遠い目で応える。
「そう遠くない未来に…あなたはその方と出会います。あなたにはその時を…曇りのない澄んだ目で見て欲しいのです」
ごくわずかな沈黙の後、電話の向こうが声を継いだ。
『大変失礼を申し上げました。 商談の件はジェントス様にお伝えします。 “槻水の姫”が笙悟陰様の探し求めている方なら、何よりも優先されるのはその方の事でしょう』
「いえ、カノジョは…とても素晴らしい素養の持ち主だけれど…探し求めている“Queen”ではないわ」
『そうですか…私には笙悟陰様こそが“Queen”としか思えない。笙悟陰様が何世紀にも渡って積み重ねて来た功績を知るに付け、そうとしか思えないのです』
「いいえ違うのです。鈴女の力もそうだし、私もそうなのだけど…私達の力は作用する事は出来ても労り抱きしめることはできない。それでは人と“魔女”の真の共生と同化はできないのです」
『笙悟陰様は“人”や“魔女”の分け隔てなく、労り抱きしめることも沢山なさって来た、私自身、それを与えられた一人です。やはり笙悟陰様以外には“Queen”は考えられない』
香狩は両手でスマホを抱きしめて静かにため息をついた。
「あなたの言葉…とても嬉しい。でも私が、それができていたとしても、それは魔女の力とは別の事です。“Queen”は魔女の力として、それが出来得る者…私達とは力のあり方が違うのです。 ああ、鈴女がこちらに歩いてきます。 では明日の件、宜しく頼みます」
そう言って電話を切ると香狩は“少女の笑顔”を被り、鈴女に声を掛けた。
「ちゃんと掃除当番もこなせた?」
「はい! あの…ウェーブグライダー ありがとうございます」
「うん、私のとジョイントして2台がかりで…あなたのウェーブグライダーに無作為に入り込んだエナジーを整流したわ。あなたのウェーブグライダーに貯めてあるから、これからの操作練習の時には、そのエナジーを使いなさい」
「ありがとうございます! 笙悟陰…様」
「そう呼ばれるのはちょっと… そうね、私はキミの事、鈴女と呼ぶけれど、キミは私の事、京橋さんみたいに、“センパイ”と呼びなさい」
「えっ?! いいんですか?」
「私たちは二人ともJKよ! こう呼び合うのが自然だと思わない?」
「あはっ! そうですね」
「あっ! 今一瞬『年寄りの冷や水』とか『短いスカートがイタイババアだな』とか思ったでしょ?!」
「いえいえいえいえいえ!!! 絶対思ってません!! “センパイ” とっても素敵!!って思いました」
香狩はカラカラ笑って鈴女の頭をヨシヨシした。
「今日は色々あって大変だったね。帰ったらゆっくり休みなさい」
しかし鈴女は頭を振った。
「まだ、これから…お弁当屋さんのお手伝いがありますから」
「そっか! それはご苦労様! またキスするか? オラの魔法種、分けてやっぞ!」
「キャハハハ 癖になるとマズいので それは遠慮します」
と鈴女は笑いながらも丁寧にお辞儀をした。
「今日一日、色々とお世話をいただき、本当にありがとうございました」
「鈴女、私も今日はとても楽しかったよ! 明日も仲良くしてね」
「はい!よろしくお願いします。」
「うん!いい返事だ!」
香狩は鈴女をギューッと抱いて耳元で囁いた。
「お弁当を買いに来ていただいたお客様にも、今の様に挨拶なさい。では、いってらっしゃい」
2022.6.9更新
イラスト追加しました。
西嶋瞬さん 案①
香狩さんは恋多き女性でもあります。(魔女だけに???)
その中で一番の男性たる西嶋さん…描くにあたってモデルはいるのですが、上手く描けるかどうか挑戦してみます(^^;)