ドキドキの初登校 ⑥
「あ、カツサンド!」
いきなりの香狩の言葉に、鈴女はビックリ眼だ。
そんな鈴女に香狩はいたってマジメな顔で言葉を継ぐ。
「お昼ご飯! キミのくちびるではお腹の足しにはならないよ」
「それは…なんか…ひどい」思わずくちびるを押さえ、ジト目で香狩を睨む鈴女だが、カノジョのお腹は気持ちとは裏腹にコロロと鳴いた。
「ほら、キミだってお腹が鳴ってんじゃん!」
「もう!」顔を赤くして叩こうとする鈴女の手のひらを、香狩はスルリとかわして自分の腕時計を見せる。
「ほら、もう時間が無くなっちゃうよ!」
「あ、TUKIMI CASUALだ」
「そう!茅野…キミのお父様からいただいた。キミは時計しないの?」
「えっ? あ、はい、前にお父さんからスマートウォッチの試作品をもらったんです。 だけど私、使えなくって…今はスマホが時計代わりです。」
「おやおや!時計屋の娘が… テストの時はスマートウォッチ禁止だし…TUKIMI CASUALはとっても素敵よ。私とお揃になさい」
「は~い、お父さんにおねだりします」
元気よく答える鈴女に…香狩は笑顔で応えて立ち上がると、スカートの裾を手で払った。
「では、そろそろ“人除け”の結界を解くよ」
「えっ?!」
「結界の中に入って来る者を燃やすわけにはいかないから、戦闘用のハードなものではないけれど…鈴女との秘め事の邪魔はされたくなかったからね」
「魔女ってそんなこともできるんですか?」
香狩とっては、まるで一般人からの質問の様に思えて、呆れる前に笑いがこみ上げて来る。
「そんなに笑わないでくださいよぉ」と鈴女は憮然とするが、そんなカノジョに香狩は眩しそうに目を細めた。
「…それはとってもいい事なのかもしれないね…ただどちらにしても今は難しい話より…ランチが重要!」
二人の周りには人のざわめきが戻って来ていた。
そして
「なんだ!鈴女、そこに居たの?!」
という小町の声が近づいて来た。
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「自慢しちゃうけど、私稼いでますから…購買のパン、がっつり買い占めました。それなのに鈴女はどっか行ったままだし…時間も押してるし、ふたりだけじゃ食べきれないところでした…でもセンパイがカツサンド丸かぶりするとは思わなかった。そう言えば、屋上の陽ざし、お体大丈夫ですか?」
「ご馳走になった上に体の心配までしていただいて申し訳ないわね。 …皆様、私が白子症だと誤解なさっているけど…そうではないのよ、これは血筋のせい。キチンと説明をしなかった私がいけないのだけどね。それに…長く高校生活を営んでいるのも病気がちで休んでいるのではなく“オサボリ”の結果なの。 私も京橋さんと同じように勤労学生だから」
「わひゃ!勤労学生ってレトロっぽくてグーカワじゃないですか!!私も今日からそう言おっと!」
「嬉しい、お仲間と認定いただけるのね。鈴女はバイトとかするの?」
「私は叔母の…お弁当屋さんのお手伝いはします。住まわせてもらっているので…」
「お手伝いって…バイト代、出ないの?」
「―ん、そんな話は姉さまとはしていないから…とにかく今は…ひとりでも多くの方にお弁当屋さんを知ってもらえるように頑張る時期なんだそうです」
「じゃあ、鈴女ん家のお弁当買わなきゃ!鈴女版Ub●r E●tsできる?」
「それは、まだ無理そう…自分のお弁当も持っていけないの。『満員電車に慣れてからにしなさい』って」
「あ、そうだった!! ねえ、センパイ!聞いて下さいよ!この子、初登校から凄いんですよ! 満員電車でコケかけて、クラス1推しのイケメンくんにお姫様抱っこされたんです!」
「いや、お姫様抱っこはされていないから…」
屋上のベンチに横並びで、購買のパンをかじりながら…少し駆け足のランチを楽しむ3人だった。
。。。。。。
イラストです。
香狩案 ⑤
(彩色しました)
ちなみに鈴女とは学年が違うのでリボン色は緑です。
う~ん 香狩さんの言動 難しいのです。
年寄り(怒られますね(^^;))で若くて可愛くて妖艶な女性が何を口走るかなんて…
ヤバ過ぎて難しい!!(笑)